FC2ブログ

2021-05

知って楽しいJRの営業規則13--特別車両券・グリーン券と寝台券

201241.jpg

 知って楽しいJRの営業規則,今日は運賃と料金に大別したうちの料金券の仲間,特別車両券(グリーン券)と寝台券についての解説を試みます。先ずタイトルの特別車両券という言葉からして馴染みがないですが,一般的にいうグリーン券を規則のなかでは特別車両券と呼びます。以前,鉄道が陸上輸送の主役だった昔は多数の夜行列車が運転され,寝台車にもいろいろな種類がありましたが,今はサンライズエクスプレスだけ,それだけで1稿にする程でもないので,料金券の仲間ということでまとめて扱うことにします。

201242.jpg
昔のグリーンきっぷ。グリーン車が利用できる企画券は大きくGと書かれ地紋が緑だった。国鉄名の常備券ですがJR化後に買ったもの

1.等級制と特別車両券
 日本の鉄道でもかつては等級制で1等,2等,3等があり,車両もそれぞれの等級のものが用意されていました。等級制のもとでは,「A駅からB駅まで1等で」というきっぷの買い方になり,運賃も等級ごとに決まっていました。3等を基本とすると2等運賃はおおよそ2倍,1等運賃はそのまた2倍でした(急行料金にも等級による差があり,2等,1等はそれぞれ3等の2倍,3倍)。A駅からB駅までという形態なので支線のローカル列車にも2等車が連結されていて,2等旅客は起点から終点まで今でいうグリーン車のような上等な設備の車両で旅行できました。貧富の格差が大きい世の中では上流階級と庶民を乗る車両まで区別していた訳ですが,日本総中流の世の中になるとそんな差をつける合理性が乏しくなってきました。車両を用意する国鉄も全ての区間の列車に2等車を用意するのは大変だし,適切な等級の車両がないときの異級乗車の取扱いも煩わしいです。そんなことから展望車を連結した客車の「つばめ」,「はと」から,電車特急「こだま」に変わった1960年に1等はなくなりました。その後,等級制のもとで特別車両制のような特ロを経て,1969年に等級制を廃止し,今のグリーン車=特別車両券が必要な車室の制度になりました。なお,ヨーロッパなどでは今でも等級制が残っています。

201243.jpg
ヨーロッパの列車。前から2両目の前半分と5両目が1等車(窓上の黄色い帯が目印) スイスの氷河特急 1992.5

2.グリーン料金の通則(旅客営業規則(以下,規)58条(発売),175条(効力),12条)
 グリーン料金も急行料金と同じで,基本的には乗る列車単位に買う必要があります,ただし,JR東日本の首都圏と,急行券でも通算が認められる区間では複数列車にまたがって利用することができます。急行券でも通算とはJRの輸送上の都合で列車体系が切れている,岡山~窪川の高知乗継ぎや高松~宇和島の松山乗継ぎなどのことで,当然のことではあります。また,グリーン券の有効期間は当日限りの1日です。グリーン車は大人のための設備という考えなのか,グリーン料金には小人料金の設定はありません。
 グリーン車のように追加の料金が必要な車両には入口にその旨の表示をするルールで,気付かずに乗ってしまったという言い訳はできないようになっています。

201244.jpg
グリーン車入り口のマーク サロE257 2020.12.24

 グリーン車はゆったり旅行するための料金なので,自由席の場合で満席では困ります。自由席のグリーン券を買って乗った列車のグリーン車が満席の場合は,車掌(アテンダント)から不使用証明書をもらえば,手数料なしで払戻しを受けることができることになっています(規290条2)。なお,デッキであってもグリーン車であり,グリーン券が必要です。不使用証明書をもらったら,早々に他の車両に移動する必要があります。また,不使用証明書の様式は見たことがありませんが,規定の文面からは区間が書けるようになっているようです。東海道線や横須賀線の通勤時間帯のグリーン車は混んでいて,満席になるのは日常と聞きます。6.(1)の区間では,グリーン券払戻しの取扱いをしないと聞いたような気がするのですが,いろいろ探してもそれらしい規定は見つかりませんでした。これらの線区の朝夕ラッシュ時のグリーン車は普通車との間の貫通扉を締切りにしますが,この規定との関係で,一歩でもグリーン車に乗ったなら払戻しはさせないぞという意図もあるのでしょうか。

201256.jpg
グリーン車締め切りの案内 東海道線 2020.12.24

 今,そんな運用があるのか分かりませんが,昔は列車の運用の都合で,グリーン車の車両にグリーン券なしで乗れる場合がありました。何十年も前の話ですが,上野から宇都宮ゆきの最終列車は仙台運転所の455系12両編成で,サロ2両連結ですがシートカバーが外され普通車として利用でき,開放グリーンと呼んでいました。一方,サロやキロを連結してはいますが,扉を締め切るなどして営業しない場合もありました。このような車両に居座ることもできましたが,非営業の車両なので車掌が来れば退去を命ぜられるし,基本的には不正乗車です。

201245.jpg
急行「なすの2号」。前夜の宇都宮ゆき最終列車が翌朝にこの列車で戻る

 このほかに元グリーン車を格下げして使っているケースもあり,これらは格下げグリーン車と呼ぶこともありますが,乗ってお得な車両には違いありません。キロ25の格下げのキハ26-400やサロ455格下げのクハ455-600などは結構数もあって,比較的乗る機会も多かったと思います。最近はJR各社とも車両の画一化が進んで,このような変わった車両が減ってきたのは寂しいです。 

3.AグリーンとBグリーン
 特別車両券(料金)は昔から特急・急行用と快速などを含む普通列車用が分かれていて,それぞれAグリーン,Bグリーンと呼んでいます。空調完備で足置きも付いた特急・急行用のサロとシートピッチが広くちょっとリクライニングするだけの普通列車のサロで設備の格差があるから分けたのでしょうか。そうでなければ,距離帯の区分が長距離列車と近郊電車で違うのでテーブルを分ける意図でしょうか。

4.会社別のAグリーン料金(規130条)
 国鉄の分割民営化で全国一律の運賃は崩れましたが,グリーン料金もまた然りで,JR発足時は同じだったと思いますが,今では下のように旅客会社別に3本建てになってしまいました。JR東日本はグリーン料金を安くして利用促進を図る一方,高級志向に対してはグランクラスを用意する戦略のようです(グランクラスは9.に詳述)。なお,グリーン車利用時の特急料金は530円引きで,結果的に自由席特急券と同額です。これはグリーン料金には座席指定を含むので,単純に特急料金とグリーン料金を足し算すると指定席分が2重どりになってしまうとの考えからです。

201246.jpg
JR各社のグリーン料金とグランクラス料金

5.Bグリーン料金(規130条)
 普通列車用のBグリーン料金はAグリーン料金のようなことにはならず,下の表のとおりで,JR東日本の首都圏とJR九州を除き全国同じ体系です。そもそもJR東日本の首都圏以外ではグリーン車を連結した普通列車がほとんどないので,議論にすらならないのでしょう。なお,Bグリーンには指定席(時刻表のグリーン車マークが塗りつぶしてある)と自由席(同塗りつぶしてない)がありますが,値段は原則,同じです。

201247.jpg
Bグリーン料金

6.JR東日本の首都圏のグリーン料金
(1)近郊電車のBグリーン券
 JR東日本はグリーン車の利用促進に熱心で,首都圏の中距離電車の殆ど全ての列車にグリーン車を2両ずつ連結しています。基本編成が6両と短い中央線方面も,快速電車のE233系へのグリーン車連結がアナウンスされました,現在ホーム延伸や車両の製作などの準備が行われていますが,地上側の工事が難航していて,2020年度サービス開始が2023年度末に延期されました。

201248.jpg
首都圏の近郊電車は2階建てグリーン車2両連結が標準

 JR東日本の首都圏のBグリーン料金は平日・休日の別と車内でグリーン券を買う場合と事前にグリーン券を買う場合の2×2のマトリックス形式になり,代わりに距離帯は50km以下と50km超の2種類に簡略化されました。欧米に比べ日本はタダ乗りに対する罰則が緩いので,あわよくば...という輩も多く,実際に車内でグリーン券を買う場合は車掌さん(アテンダントさん)の手間もかけているので,車内料金を割高に設定するのはヒットだと思います。一方,距離帯の方は50km超無制限なので,長距離を利用する場合は割安です。なかには200km超の区間を走る列車もあるので,そんな旅行ではぜひグリーン車を利用したいものです。

190205.jpg
熱海~黒磯間268.1kmを走っていた1586E(2019年ダイヤで消滅)と同区間のグリーン券 @東京 2017.7.31/2015.3.22

 JR東日本の割安なBグリーン料金適用の区間は現在のところ,下の図の区間で自由席の場合です。臨時列車などで指定席が設定される場合は,5.の本則どおりになります。また,この区間内では同一方向であれば複数列車を乗継ぐこともできます。同一方向とは,宇都宮から熱海ゆきのグリーン券で,乗った列車が横須賀線の逗子ゆきであれば大宮から大船のいずれかの駅で高崎線方面から来た熱海ゆきに乗継ぐことができます。

201249.jpg
割安かつ乗継ぎが可能なグリーン料金のエリア(JTB 時刻表2020年3月号)

 上では簡単に同一方向と書きましたが,実際の規定(規58条4)や時刻表の案内では乗継ぎができないパターンを11ケース羅列しています。グリーン券は1こ列車に限るというルールがあるばかりに直通する列車しか乗れないのでは著しく利便を損なうので合理的な規定です。なお,なぜか大船駅での東海道線藤沢方面から横須賀線北鎌倉方面はNGリストになく,乗継ぎ可能です。

(2)全車指定制特急列車のAグリーン券
 JR東日本は首都圏発着の特急列車を全車指定席制に変えてきていますが,これらの列車では普通車利用時の特急料金とグリーン車利用時の特急料金のように案内することが多いです。特急料金は50km刻みで小人半額,Aグリーン料金は100km刻みで小人も同額のため,合計の料金にするとへんに波打ってしまうので,このように案内するようです。初めてこのテーブルを見たときは特別の包括料金を設定したのかと思いましたが,これは全車指定席制特急列車の割安な特急料金にAグリーン料金を足して530円を引いた金額です。

201250.jpg
特急「踊り子」の2021年3月の料金改定案内チラシから。()内はこども料金

7.急行くずれの列車のグリーン券(規58条5,130条3,175条3)
 外房線の特急「わかしお17号」の勝浦以南のように,急行列車が途中から普通列車になることがあり,俗に「わかしおくずれ」と呼んだりします。このような列車に直通して乗るときは,急行列車の区間のAグリーンの料金で,普通列車の区間も乗れるルールになっています。急行,普通の別でそれぞれのAグリーン,Bグリーン券が必要とすると極めて割高になってしまうので,末端区間の分はいただきませんという趣旨です。国鉄~JRの規定のなかで,このようにすっぱり要りませんという規定は少ないと思います。なお,例に引いた「わかしお17号」はE257系でグリーン車は不連結,2020年3月ダイヤをさらっと眺めましたが,全国でもグリーン車を連結したまま普通列車になるケースはないようです。規定は削除されずに残っているので,このような列車が設定されないか,今後に期待です。

201251.jpg
長野~軽井沢間(74.4㎞)普通列車だった「信州8号」の急行券・グリーン券。料金は軽井沢~上野の150kmまで(142.3km)の距離帯

8.お座敷列車などの料金
 お座敷客車やバブル時代のリゾート列車(ジョイフルトレインと呼ばれることもあります)は設備のグレードが高いのでグリーン車扱いのオロやモロなどです。これらの車両に乗る機会は少ないですが,臨時列車で座席を一般販売するときはグリーン車として発売されます。中央線の行楽列車は毎シーズン運転され,特急と遜色ないダイヤで走ることも多いですが,グリーン料金と特急料金が併課されると割高になってしまうので,最近は快速列車として走るようです。また,「リゾートやまどり」などの比較的新しい改造車両は豪華な設備でも普通車扱いです。

201252.jpg
千葉の和風電車「ニューなのはな」で運転の行楽臨時列車 @甲府 2013.10.16

9.グランクラスとプレミアムグリーン
 JR東日本はグリーン車の利用促進に熱心で割安なBグリーン料金を設定する一方,高級志向に対しては新幹線にグランクラスを,在来線特急の「サフィール踊り子」にプレミアムグリーン車を設定しています。
 グランクラスは輸送サービスだけではなく,著名料理人監修の軽食,飲み物のサービスが付いた包括料金です。グランクラスはE5系,E7系で運転される列車に連結されますが,運用列車の拡大で有効時間帯にかからない列車もあるため「グランクラス(飲料・軽食なし)」として運用される列車もあり,時刻表ではグランクラスのマークの塗りつぶしなしで識別されます。なお,グランクラスは乗入れ先のJR西日本の北陸新幹線やJR北海道の北海道新幹線でも同様に営業されます。JR東日本,JR西日本とJR北海道でグランクラスの料金が違ったり,グランクラス非連結の列車との乗継ぎなどのケースがあるため,昔の異級乗車のようなこまごまとした料金が決められていますが,ここでは省略します。

201257.jpg
サフィール踊り子号 @戸塚~大船 2021.1.30

 一方,プレミアムグリーン車はシートピッチ1250㎜,1+1の1列2席配置でゆったりした座席がサービスで,供食サービスはありません。
 通常のグリーン車が駅で利用しやすい4,5号車に連結されるのに対し,グランクラス,プレミアムグリーン車は関係者以外の無用な立入りを避けるため,列車の下り寄り先頭車両になっています。デッキの扉に窓がなく,グランクラス券購入者以外の立入りお断りの掲示もあり,おそろしく入りづらい印象です。

10.寝台券(規60条(発売),136条(料金),178条(効力))
 寝台券は,以前は寝台の設備ごとにたくさんの区分がありましたが,今は寝台の設備を持つ定期列車は「サンライズ出雲」,「サンライズ瀬戸」(あわせてサンライズと呼びます)だけ,設備ごとに5つの区分があるだけです。

201253.jpg
サンライズの寝台料金(JTB 時刻表2020年3月号)

 寝台券は横になって寝るための設備の料金です。このため朝6時を過ぎた後にその列車が運転打切りになっても,寝台料金の払戻しはありません。反対に朝6時を過ぎた後の区間では,俗にヒルネといいましたが,区間を指定して寝台車を指定席車として使用していました。ヒルネの指定席を発売する車両は,それまでに寝台の利用者が降車するよう寝台券の発券もコントロールしていました。なお,「サンライズ出雲」は30分後(出雲市到着では12分後)に「やくも」の始発が走るので,ヒルネの設定はありません(ノビノビ座席を利用することは可能)。

190934.jpg
サンライズ瀬戸・出雲 @横浜 2019.1.3

 また,1つの寝台を大人と小人で利用することが認められていて,そのときの小人には特急券が必要です。わが家では「富士」の廃止直前に14系の70cm幅の寝台に奥と当時8歳のジュニアが添い寝しましたが,20系以前の52cm幅の寝台での添い寝はさぞかしきつかったろうと思います。

 夜行列車が多数運転されていた頃の寝台料金は,グリーン車にあたるA寝台のほかにB寝台が星の数1つから3つで区分されていました。下はその後,客車3段式(星1つ)がなくなった後の料金表です。

201254.jpg
かつての寝台料金(JTB 時刻表2005年1月号)

 また,僕が時刻表を見始めたころの時刻表にはA個室寝台の見取り図があり,いつか乗ってみたいと思っていましたが,実現せぬまま20系ロネはなくなってしまいました。

201255.jpg
1等寝台の見取り図(日本交通公社 時刻表1968年10月号,復刻版)

 昔話をし始めるときりがなくなるので,この辺で今日の解説は納めようと思います。グリーン券,寝台券ともに個室に関する様々な規定もあるのですが,ここでは省略させていただきました。(2020.12.20記)


知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則
10.新幹線特急券に関する規則
11.急行料金の割引き(乗継割引き)
12.指定席券とライナー券などの乗車整理券に関する規則
スポンサーサイト



知って楽しいJRの旅客営業制度12--指定席券とライナー券などの乗車整理券に関する規則

151054.jpg

 JRの旅客営業制度の考察,12回目は指定席料金とライナー券などの乗車整理券に関する制度について説明します。今や優等列車といえば特急列車であり,急行列車の指定席車という言葉は死語に近く,指定席料金といえばSL列車料金のような趣です。一方,乗車整理券,ライナー券のほうは列車や乗車する号車を指定する座席定員制から,座席を指定する方式も現れてその差がなくなってきました。今回も歴史的経緯を紐解きながら,制度の理解を深められるとよいと思います。

1.特急列車と急行列車
 既に第9回で説明済ですが,旅客営業規則において特急列車は空調,ゆったりした座席のような設備と速達性を売り物にする列車で,指定席が標準,自由席特急券は指定席の特急券から530円引きするという考えです。一方,急行列車は設備はともかく速達性だけを売り物にする列車で,座席の指定を受けてゆったり旅行をするサービスへの対価は指定席料金として別途付加されるという考えでした。振返って考えると,この辺の制度的違いもモノが豊かになった現代の社会に合わなくなり,急行列車が淘汰される遠因だったのかもしれません。

200451.jpg
特急列車は本来全車指定席であるべき。「あずさ」 @甲府~酒折 2018.9.23

2.指定席券の現代的意義
 今のJRに定期の急行列車は1本もないので,急行列車の指定席は概念だけで,たまに運転される臨時の急行列車でのみ発売されます。快速列車でも指定席を連結する列車があるので,現代的な意義としては快速列車で座席を指定して定員乗車でゆったり旅行するサービスといえます。大した違いはありませんが,これらを敢えて分類すると,以下の3つがあるかと思います。

181006.jpg
臨時列車では急行券・指定席券もまだ現役。「御殿場線80周年号」 @沼津 2014.11.24

(1)純粋な快速列車
 (2)にも(3)にも当たらないふつうの快速列車での指定席車の連結です。後ろの2つは空港連絡,本四連絡という使命を持つ動脈で本数も多いですが,「はまゆり」はたった3両編成のローカル快速で立派なものと思います。また,先頭の「あいづ」は直近の2020年3月のダイヤ改正から連結されるようになったもので,JR東日本は意外と快速列車の着席サービスに積極的なようです。
・快速「あいづ」(郡山~会津若松)
・快速「はまゆり」(盛岡~釜石)
・快速「エアポート」(札幌~新千歳空港)
・快速「マリンライナー」(岡山~高松)(グリーン車も連結) など

200452.jpg
快速「あいづ」 と その指定席ゾーン @喜久田,郡山 2020.3.21

(2)リゾート列車
 各地を走るリゾート列車は,車両もそのために準備したハイグレードなものも多く,せっかくのリゾート旅行が立ちんぼうでは残念なので,事業者,旅客とも指定席料金の徴収は納得感があります。

190779.jpg
快速「リゾートしらかみ」 @北金岡 2019.7.15

(3)SL列車
 北海道から九州まで各地を走る保存SLによる臨時列車に大抵の場合は指定席料金が必要です。SL列車なので速さは求めませんが,SLの保存,運転にかかる手間などを考えれば,追加の料金は合理的です。面白いのはその料金で,会社や列車で料金が異なります。

190726.jpg
快速「SL銀河」 @陸中大橋 2019.7.13

3.会社,列車,繁閑で異なる指定席料金(旅客営業規則139条の2)
 指定席料金には特急券の閑散期と同様の割引き料金がありましたが,JR北海道とJR九州はこの制度をやめてしまいました。また,2.(3)に書いたようにSL列車でも高く売りたい列車は840円の料金が設定されています。この稿を書くために再度,時刻表を確かめたら,SL列車だけでなく,JR東日本では2.(2)のリゾート列車でも一部の列車に840円を設定していました。なお,指定席料金には繁忙期の割増しはありません。これらをまとめると下の表になります。

200453.jpg

4.指定席券の大人と小人
 現在の小人の指定席料金は大人の半額です。しかし,指定席の占有ということを考えると小人でも1席分をとるので,国鉄最後の1986年9月の料金改定までは大人小人同額でした。このため小人の料金は,料金まるまるが半額になる特急券よりも,指定席券に割引きのない急行券・指定席券の方が距離帯によっては高くなるという矛盾がありました。国鉄の制度担当も分割民営化を前にこのような矛盾をなくそうと考えたのかもしれません。同様に,前回書いた乗継割引きで指定席券を割引くようになったのもこの料金改定の時からです。

5.乗車整理券とライナー券
 最近のJRでは関西の京阪神地区にAシートが登場するなど,通勤ライナーの運転や通勤時間帯の着席サービスが各地で行われています。これらの列車は,上野から東大宮の留置線に回送する特急電車を見て,国鉄の担当が何とか活用できないか考えたのが始まりといわれています。その後,東海道線の「湘南ライナー」では専用の電車,215系も登場し,全国各地に広まりました。

190574.jpg
「湘南ライナー1号」 @東京 2019.3.22

 これらの列車は当初は座席定員制でライナー券には乗車駅と乗車できる号車の案内しか書かれていませんでした。このためきっぷの種類としては指定席券ではなく「乗車整理券」の1態様という扱いです。今はマルス(JRグループの座席予約システム)の発達でどうなっているか分かりませんが,当初は指定席券とは違うのでマルスに収容されておらず,もっと簡易なシステムで販売していました。去年,ホームで案内をしていた係のかたに聞いた際も,機械ごとに販売枠が決まっていて,機械が故障するとその枠の席は発券できなくなると言っていました。

200459.jpg
JR東日本のライナー券。湘南ライナーと中央ライナー(現在は特急「八王子」に格上げ)のもの

 また,ライナー券には1か月分をセットにした「ライナーセット券」もあり,朝のライナー用の月曜日から金曜日まで1か月分をセットで売っています。値段は日数分の掛け算で割引きはありません。ライナー券は当日ホームで買うのがふつうなので,ライナー券販売機では前売りはできず,駅のみどりの窓口で買うきっぷは特別企画乗車券扱いです。

190575.jpg
前売りのライナー券。湘南ライナーのもの

200457.jpg
ホーム上のライナー券の発売機 と 残席数の表示

6.乗車整理券のルーツと条文
 ところで,ライナー券は旅客営業規則上はどのような扱いになっているのでしょうか。規定集を紐解くと指定席料金についてを記した第10節があり,続く第11節は特殊料金です。条文の並びでは140条の2,3とすぐ近くですが,制度的には全く別物です。特殊料金には食堂車の貸切料金,専用線料金,暖房料金などびっくりするような規定が並んでいるその先頭です。

200454.jpg
昔の年末年始の臨時列車の乗車整理券

 その昔,昭和の時代,年末年始の帰省シーズンの優等列車の混雑はひどいものがありました。583系のボックス席の中に立っている客が割込んでくるなどという話を聞いたことがあります。この頃,急行列車の自由席でも優先的に乗車できて,着席保証がある整理券を発売していました。これを「乗車整理券」と呼び,以下の条文がありました。

200455.jpg
旅客営業規則140条の2と3

 5.の冒頭に書いた,大宮ゆき回送列車のライナー営業を始めるとき規定集に当たったらこの条文があったので,そのまま使うことにしたのでしょう。140条には「の2」と「の3」があって,値段が違うだけで同じ規定内容,前者は乗車整理料金,後者はホームライナー料金というタイトルです。元々ライナー券は300円+消費税の金額でしたが,JR東日本がライナー券を500円+税にしたため,「の3」が追加されたようです。

200460.jpg
JR東海のライナー券。車内で発売されたもの

7.ライナー券と指定席券の違い
 ライナー券は今は座席定員制が主流ですが,新宿からの中央線方面は上にきっぷを示したように指定席制でした。こうなるとライナー券と指定席券の違いがよく分からなくなってきます。これについて僕は,途中駅から乗車した場合の扱いが異なると考えています。指定席は指定席車とされた区間は最末端のたった一駅であってもその車両に乗るなら指定席券が必要です。一方,ライナーはライナー券を発売する乗車専用駅から乗車する場合にだけ必要で,その他の駅からの乗車はフリー,空いている座席に座ることができます。これは規定の条文の「列車の始発駅等における座席確保の取扱いをする」という記述から自明だと思います。なお,JR東日本は現在,「湘南ライナー」の大船(一部の列車は藤沢)以西をただの快速列車として,途中駅からの乗車はフリーと明示しています。2014年3月のダイヤ改正より前は大船(同)以西を降車専用駅としてこれらの駅からの乗車はグレーでしたが,組合の指摘で改善したそうです(Wikipediaの記述による)。

170518.jpg
JR東海の「ホームライナー静岡」 @六合~藤枝 2017.5.1

8.指定席券,ライナー券などのこれから
 毎々書くこれらの制度これからですが,指定席は今後もリゾート列車,SL列車のように速達性はないが座席指定をサービスとして売れる列車については続くものと思います。列車の席の需給や設備の豪華さなどによって複数の値段が設定されそうです。制度は単純なほうがよいので,列車ごととかあまり細かい制度設計は反対です。

200456.jpg
ライナー専用形式の215系。週末のアルバイト先の「ホリデー快速ビューやまなし」 @酒折~甲府 2018.9.23

 一方,ライナー券は制度的にしっかりしていないので,通勤ライナーの運転も定着したことだし,制度の再設計と整理が求められます。JR東日本の東京圏だけ520円の設定ですが,房総方面,大宮・高崎線方面,中央線方面ともライナー列車は全て特急になってしまいました。東海道線の「湘南ライナー」は専用車の215系がだいぶくたびれてきたし,185系の置換えも始まりました。もう時間の問題と思われますが,今回のダイヤ改正では実施されませんでした。特急格上げは避けられないものとして,毎々書くように特急の格付けを整理・細分化して,通勤特急に見合う割安な料金設定が望まれます。他のJR各社では乗車整理券の制度は変えないとしても,もう少し落ち着きのよい場所へ移行したり,JR東海とJR九州で10円の違いがある点など整理のしどころはあると思います。(2020.4.5記)
 この記事を書いた後アップしないまま温めているうち,11月12日にJR東日本から「東海道線特急が新しく生まれ変わります」というニュースリリースがありました。これによれば,「湘南ライナー」は全車指定席制特急「湘南」に建替え,185系電車は定期運用を終了だそうです。となると東京圏でのライナー列車は全廃,他地区での動向が気になるところです。(2020.11.22記)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則
10.新幹線特急券に関する規則
11.急行料金の割引き(乗継割引き)

知って楽しいJRの旅客営業制度11--急行料金の割引き(乗継割引き)

1806AK.jpg
「くろしお」,「南紀」も新幹線から乗継げば割引きの対象 1982.2

 JRの旅客営業制度の考察,11回目は急行料金の割引きについて説明します。旅客営業規則では特急も含めて急行というので,特急券の割引きも含めて扱います。また,「割引き」というタイトルはつけましたが,そんな制度がたくさんあるはずもなく,実態としては乗継割引きの解説です。今回は余裕があるので,古いきっぷなども載せながら,昔話も付け加えます。

190922.jpg
乗継割引き適用の特急券。「乗継」と大きく印字される 

190923.jpg
昔は常備券でも「乗継」と印字されたものがあった
(豊岡のものはJR化後ですが「こくてつ」の地紋)

1.乗継割引きの基本(旅客営業規則(以下,規)57条の2,126条の2)
 新幹線と在来線,新幹線または「サンライズ瀬戸」と四国の急行列車相互間を乗継ぐ場合で下の条件を満たすときは,在来線の急行券が半額になるものです。

(1)乗継ぐ列車の組合わせと乗換駅
190921.jpg
乗継割引きのまとめ

(2)2列車に乗る日は,新幹線~在来線のときは当日限り,在来線~新幹線のときは当日または翌日に限る。

(3)乗車区間の乗車券と両方の列車の特急券を同時に買う場合に限る。

(4)新幹線の両側で在来線と乗継ぐ場合は特急料金が高いほうの1列車に限る。例えば,益田~(おき)~新山口~(新幹線)~米原~(しらさぎ)~金沢の場合は「しらさぎ」だけが半額。

(5)基本的に1人用個室以外の個室の設備を使う特急券は割引きの取扱いをしない。

190924.jpg
割引きの条件となる新幹線の特急券にも「乗継」の証明をする

2.新幹線~在来線の乗継ぎ割引について
(1)乗継割引きの経緯
 乗継ぎ割引のそもそもは,新幹線ができたときに東京から山陽・九州方面への直通旅客が,直通列車がなくなったうえに新大阪や岡山での乗換えをしいられるようになったこと,更に新幹線の高い特急料金の負担があることから,これらの救済のためにスタートした制度と心得ています。家にある時刻表の営業案内を紐解くと,東海道新幹線開業の1964年10月号には乗継割引きの記述はありませんが,全国の特急列車網を整備したエポックメーキングなヨン・サン・トオダイヤ改正の1968年10月号にはその記述があります。新幹線~在来線の乗継ぎでは多かれ少なかれ同様の事情ですから,東京駅を除く新幹線駅全てと大阪駅を対象としていました。制度の趣旨に照らして,東京~九州間の寝台特急は割引くに当たらずと考えたのでしょうか,この時から割引きはありませんでした。

190925.jpg
43-10のダイヤ改正号の時刻表(復刻版) 日本交通公社 1984年7月刊

 列車に乗る日が在来線~新幹線の場合は翌日でもよいのは,九州発の寝台特急から新大阪や岡山で乗継ぐケースを想定していたのでしょう。往きと帰りで異なる面白い制度ではあります。

 時代は下り,東北,上越の新幹線ができると乗継割引きの制度は受継がれ,東京,上野,大宮を除く各駅での在来線への乗継ぎが割引きになりました。福島からの「つばさ」や盛岡からの「たざわ」,「はつかり」などでも盛んに使われたことと思います。新幹線網の整備が進むとこれらの特急は(整備)新幹線やミニ新幹線に取って代わられました。

190926.jpg
東北新幹線が盛岡までの頃の「はつかり」の特急券

(2)乗継割引きの応用~長距離の寝台特急を追いかける
 新幹線~九州特急を除く在来線特急というのは意外と応用範囲が広く,国鉄~JRの意図とは多少異なりますが,こんな使い方もできました。今でも条件を満たせば可能ですが,そもそもこれらの列車はなくなってしまったものが多く,昔話です。
 北海道夜行の「北斗星」は上野発時刻が早く,仕事を終えてからでは間に合わない時間でした。このため,新幹線で郡山,福島,仙台へ追いかけてつかまえることがありましたが,この時の「北斗星」は乗継割引きでした。逆に,上野まで「北斗星」に乗っていたのでは会社の始業に間に合わないので,郡山から新幹線で会社に駆込んだこともありました。今でも「サンライズ出雲・瀬戸」を熱海でつかまえる乗継ぎは可能ですが,新幹線で行っても東京を出る時間は10分しか変わらないので,実用的ではありません。

190927.jpg
新幹線で追いかけて乗った「北斗星」の特急券

190928.jpg
「サンライズ瀬戸」の特急券・寝台券
このときは呉在勤で,岡山から新幹線で呉に戻った。飛行機の初便より少し早かった

(3)乗継割引きの応用~新幹線で行って在来線で帰る
 乗継割引きの趣旨に沿った利用とは到底言えませんが,往路は新幹線で,帰りはゆっくり在来線でというときの在来線に乗継割引きが使えます。静岡への用事のときに,往きは新幹線,帰りは在来線の特急「東海」(今は廃止)を使うことができました。岡山に行く用事がある時,往きは「サンライズ出雲・瀬戸」で,帰りは新幹線というのもありです。在来線を先に乗る場合は,翌日の乗継ぎでも適用になるので,岡山でほぼ1日を過ごすことができます。今でも京都~姫路間で「はくと」などという利用が考えられますが,新快速が15分間隔で走るなか,敢えて「はくと」に乗ることもなく,これも実用的ではありません。

190929.jpg
「東海」の「乗継」の特急券。ただし,この時は駒ケ根からの帰り

3.本州~四国間の乗継割引きについて
 本州~四国の乗継割引きは歴史的に2つの制度があります。一つは「サンライズ瀬戸」号を利用し,坂出または高松で乗継ぐ場合で,本四備讃線開通前の寝台特急「瀬戸」時代からの規定を引継ぐものです。
 もう一つは2.の新幹線~在来線のルールの一部として,坂出と高松での乗継ぎを認めるものです。ただし,岡山~坂出,高松間を特急で来た場合は,その分で乗継割引きの権利は行使済なので,その次に乗る特急の分は割引きになりません。
 なお,新幹線から岡山乗継ぎで「しおかぜ」または「南風」に乗り,宇多津,丸亀,多度津で四国島内系統の「しまんと」または「いしづち」に乗継ぐ場合の「しまんと」,「いしづち」はとくにNGとの規定がありません。これを規定するのは規57条2という1つ特急券で複数列車の乗継ぎを例外的に認める条文なので,適用可能と考えています。尤も,時刻表を見ると,ここ数年で「しおかぜ」,「南風」系統の列車が充実し,岡山直通列車が増えたのでそもそもこのニーズはなさそうです。

1606A7.jpg
昔の高松駅風景 1979.8.13

4.本州~北海道間の乗継割引きについて
 かつては,四国同様に対北海道でも,乗継割引きの制度がありました。青森まで特急列車で来た場合,青函連絡船や海峡線の列車を介して,函館からの特急列車が割引きになるものです。また,新幹線~在来線の割引きとは趣旨が違うので,東北新幹線~盛岡~(はつかり)~青森~(海峡線)~函館~(北斗)~札幌の場合,「はつかり」と「北斗」は両方とも半額でした。北海道新幹線ができた今では,新函館北斗まで直接新幹線で行けるようになったので,通常の新幹線~在来線乗継ぎのルールの中で運用できます。

190930.jpg
190937.jpg
寝台特急「ゆうづる」と「おおとり」の乗継ぎ
奇跡的に(?)このときの写真もありました 1986.12.28

190931.jpg
函館接続の特急用の常備券

5.乗継割引きの今
 乗継割引きの制度の始まりは2.に書いたとおりですが,新幹線網が整備され,新幹線の利用がふつうになると,新幹線利用による割高感の救済は無用の心配になってきます。このため現在は乗継割引きは消極的になっていて,JR各社でも温度差があります。

190932.jpg
JR九州でも乗継割引きがあった頃の特急券

 先ず,JR九州ですが,JR九州管内では乗継割引きはありません。鹿児島中央まで新幹線が通じたので途中で乗継ぐという概念がなくなった,JR九州内は全てがB特急のうえ短距離の特急料金も用意し全般として特急料金が割安になった等の理由から,制度としての役割を終えたと判断したようです。かつては,「かもめ」や「有明」の車内で本州発の乗車券を見せて特急券を買うと,車掌が「博多までは新幹線で来たのですね」と確認のうえで,半額で車内券を売っていました。それほど積極的に適用していましたが,反面,それが煩雑になったとも考えられます。

190933.jpg
以前なら適用可だったと思うが,この時点(2014年)で適用不可だった「あけぼの」

 次にJR東日本は,乗継ぎに関して厳密に順路であることを意識して,適用可能な駅を列挙する方式に改めました。以前は仙台への往復に関して,往路は新幹線で,復路は常磐線の「ひたち」でという乗継割引きが可能でした。このような制度の趣旨と合わない乗継割引きを排除するよう,適用可能な駅を絞っています(1.の表参照)。上のきっぷの当時は,新青森接続で弘前や大館に行く「つがる」は乗継割引き適用でしたが,「あけぼの」は名指しで除外されていました。

 JR東海とJR西日本は従来と変わらぬ制度を維持していますが,山陽新幹線の九州内の小倉,博多は除外,北陸新幹線もJR東日本方式を踏襲しています。北陸新幹線の場合は在来線が3セク化されてるので,3セク会社の特急料金は割引きにならず,上越妙高の場合は直江津以遠,金沢の場合は津幡以遠のJR部分の特急料金が半額になります。なお,金沢も指定にあるので,北陸新幹線で来て,サンダーバードで小松や福井へ行く場合も乗継割引き適用です。

190934.jpg
サンライズ出雲・瀬戸 @横浜 2019.1.3

6.乗継割引きの運用
(1)同時購入条件の運用
 乗継割引きの適用を受けるには,乗車券と特急券を同時に買わなければならいことになっています。5.に書いたJR九州の例は少々やり過ぎの感もありますが,比較的柔軟に運用されているようです。さすがに1.の表で条件となる列車の特急券なしに割引く例は考えられませんが,一般に同時でなくても,条件となる新幹線特急券を提示すれば割引いてもらえます。また,旅客営業取扱基準規程97条2で,乗継割引きを請求したのに満員等で売れない場合は「乗継請求」というハンコを押すことになっていますが,見たことがありません(そういう請求をした憶えもないですが)。

190935.jpg
発行日付から「はつかり」分は後から青森で買っている

(2)快速列車の乗継割引き
 この記事を書いて思い出したのですが,快速列車の指定席で乗継割引きの適用を受けたことがありません。先般乗った「きらきらうえつ」も新潟乗継ぎで条件に合います。しかし,乗継割引きは条文のタイトルが「乗継急行券の発売」で,条文も「急行列車相互間に乗継ぎをする場合で...」という書き出しです。従って,快速列車ははじめから相手にされておらず,快速列車の乗継割引きという概念はありません。

190936.jpg
「伊那路」はA特急料金だがデッキなしの373系で運転 2015.7.29

7.乗継割引きのこれから
 毎回最後に書いているこの制度のこれからですが,5.に書いた現状を考えれば消極的にならざるを得ません。JR東海だけ見ると,この会社にはB特急の制度がないので,新幹線で来ていただいたお客さんに限り在来線特急券を割引きサービスします...という考え方はあります。これとて鈍足な「伊那路」や「富士川」をB特急にすればよい訳で,JR九州同様に乗継ぎ割引きの制度を全廃としても大きな問題はなさそうです。旅客営業の制度で割引きといえば往復割引きか乗継割引きくらいしか思い当たらないので,趣味的には乗継割引き適用になるとワクッとします。先は心配ながらも,制度のあるうちは密かな楽しみかな...というのが乗継割引きのこれからです。(2020.2.8記)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則
10.新幹線特急券に関する規則

知って楽しいJRの旅客営業制度10--新幹線特急券に関する規則

181130.jpg

 JRの旅客営業制度の考察,10回目は新幹線の特急券に関する制度について説明します。頻繁に鉄道旅行をしていた学生時代,特急料金が高い,直ぐ着いてしまう,窓が開かず風情がないなどの理由で新幹線を嫌っていました。その頃の体験から今でも新幹線は好きではないのですが,避けては通れない項目なので勇気を振り絞って解説を試みます。

190181.jpg
田端付近の高架を行く「つばさ」+「やまびこ」 @田端 2018.11.25

1.新幹線の特急料金
 先ず新幹線の特急料金は在来線の特急料金のような距離帯ごとの設定ではなく,駅から駅への区間ごとに定められ,三角表で示されます。そうは言っても全てを区間ごとに定めている訳ではなく,概ね距離帯ごとの設定になっています。試みに三角表で示される特急料金を読取って,距離別にプロットしたものが下のグラフです。これをじっくり眺めると,面白いことがいろいろ分かりました。

190194.jpg
各新幹線の特急料金を距離×ねだんでプロットしたもの(拡大はこちら
東海道:東京,山陽:新大阪,九州:博多,東北:上野,上越:大宮,北陸:高崎,北海道:新青森を起点とした各駅

・グラフの読み方として,各点を結ぶ近似の線を考えたときに横に寝てくれば割安,縦に立上がれば割高です。
・割安なのは国鉄時代からの東海道・山陽と東北・上越ですが,微妙に傾きが違い,東海道・山陽のほうが若干割安です。
・国鉄時代からの経緯からか,東海道と山陽は会社が違っても傾きは同じです。
・国鉄時代からの新幹線(東海道,山陽,東北,上越)ではほぼ100km刻みで設定されています。
・いわゆる整備新幹線(九州,北陸,北海道)では刻みが細かく角度が急で,北海道は国鉄時代からの新幹線の2倍以上です。
・東海道の熱海と三島は在来線からの移行を促すためか,100kmを超えているにも拘らず100kmまでと同じねだんです。時刻表等では開示されていませんが,実キロでは熱海は95.4km,三島は111.3kmです。

190190.jpg
北陸新幹線開業の日の金沢で 2015.3.14

2.新幹線特急料金は通算する
 新幹線の特急料金は同じ運転系統で新幹線改札を出なければ通算されます。同じ運転系統とは「ひかり」と「こだま」や「はやぶさ」と「やまびこ」のことで,東北新幹線と上越新幹線を大宮で乗継ぐような場合は通算にはなりません。基本的には東京から相生に行くのに,東京~新神戸間を「のぞみ」,新神戸~相生間を「こだま」に乗るような緩急接続に対応する考えです。余談ですが,このケースのときに姫路で「のぞみ」から「こだま」に乗換えることもできますが,「こだま」が同じ列車で相生に着く時間は同じでも,姫路乗換えだと「のぞみ」利用区間が長くなるため100円高くなるので注意が必要です。また,東北新幹線から北海道新幹線への直通利用時は東北新幹線の新青森までと北海道新幹線の特急料金の合算が原則ですが,指定席料金見合いの部分が二重になるので520円引きし,七戸十和田と奥津軽いまべつ発着の場合は特定特急券の料金で計算するなど,とても芸が細かくなっています。

190183.jpg
同じ列車の中で席をきざんだ例(広島~東京を3区間に分ける)

 このルールを利用すると,以下のようなこともできます。一つは長距離の利用で空席がない場合でも,区間を分けると席がとれる場合があります。以前,週末の夕方に徳山から東京に帰るときのことです。窓口で広島~東京(直通)の席を所望すると満席でしたが,広島~岡山,岡山~新大阪,新大阪~東京に区切って照会したら,同じ列車で席を確保できました。もちろん荷物を持って車内を行ったり来たりしなければなりませんが,乗れないに比べれば随分ましです。コンピュータの世界では断片化(フラグメンテーション)といいますが,空席が断片化してしまって,席はあるのに通しでの空席がないために起きる現象です。短距離利用の旅客に,乗車駅まで他の旅客が座っていた席を売ればある程度防げるはずですが,列車のなかである部分はぎちぎちだけど,ある席は最初から最後まで客が来なかったということにもなります。JRも旅客が快適に過ごせて,かつ無駄の発生しない座席割当てロジックに日夜改良しているのでしょうが,完璧にはならず難しい命題です。

190195.jpg
ブツ切りにした特急券(金沢~高崎を5区間に分ける)

 もう一つは途中下車の擬似体験です。北陸新幹線金沢開業の日に僕は金沢から高崎まで新幹線に乗りました。せっかくの開業初日の新幹線,いろいろな駅に寄ってみたいのですが,各駅ごとに降りたら特急料金がバカ高くなってしまいます。仕方がないので,新高岡,黒部・宇奈月温泉,上越妙高,長野で区間を切って特急券を買いました。実際にやってみると,途中下車どころか新幹線改札を出ることすらできません。また,駅によっては次の列車まで1時間待つこともあり,暇を持て余してしまいます。駅の外では新駅開業記念のお祭りをやっていたりで,とても寂しかった憶えがあります。

190191.jpg
外では獅子舞をしているが新幹線改札から出られない @新高岡 2015.3.14

 なお,特急券を買った駅の窓口氏はこんなブツ切りはダメと文句を言いたそうで,上司にお伺いをたてに行きましたが,「今回限りですよ」とクギをさして発券してくれました。これは140円旅行と同じで,規定の正しい運用とは言えませんが,Noというルールがある訳でもありません。窓口氏の「今回限り」というのは,後日他の駅で「xx駅ではやってくれた」と言われるのを避けるための方便で,「他の担当者でも同様の対応をするとは保証しません」と同義と心得ています。

180358.jpg
N700系で東海道区間285m/h運転の「のぞみ」 @米原 2018.8.14

3.新幹線特急料金の加算(1)プレミアムの付く列車
 新幹線特急料金の三角表は運転系統ごとに一つで速達列車でも各駅停車でも特急料金は変わりませんでした(※)。1992年3月の300系「のぞみ」の設定の時から「のぞみ」はプレミアムの付く列車として「ひかり」,「こだま」より割高な特急料金が設定されました。自分の勤める会社では,経費がかかりすぎるという理由で「のぞみ」は出張旅費で利用できないルールでした。時代はくだり,現行のダイヤでは1時間に「のぞみ」10-「ひかり」2-「こだま」2本が運転され,むしろ1時間に2本しかない「ひかり」に乗る方が難しい時代になりましたが,特急料金はプレミアムの付いたままです。自由席では列車を特定することができないため,「のぞみ」,「ひかり」,「こだま」は同じ特急料金ですが,「のぞみ」には自由席車は3両しか連結されていません。また,一部区間だけ「のぞみ」の指定席を使う場合のために,区間ごとの加算額を定めた三角表も設定されています。

190192.jpg
終焉間際の300系電車 @品川 2012.2.17 写真:ジュニア

 一方,東北方面では2011年3月のダイヤ改正から東北新幹線の宇都宮~盛岡間で320km/h運転をする「はやぶさ」が運転を始め,併結する「こまち」も含め加算料金が設定されました。こちらは「のぞみ」と異なり,全車指定席なので自由席特急券はありません。また,この加算料金が設定されているのは,大宮~盛岡間だけです。北陸新幹線の「かがやき」,山陽~九州新幹線の「みずほ」もプレミアムな列車ですが,「かがやき」は全車座席指定であるだけで特急料金の加算はなく,「みずほ」は山陽新幹線区間のみに加算料金が設定され,九州新幹線区間だけなら「さくら」,「つばめ」と同額です。

160321.jpg
東北~北海道新幹線「はやぶさ」 @新函館・北斗 2016.3.26

4.新幹線特急料金の加算(2)東北新幹線の東京駅加算
 東北新幹線の東京駅開業は1991年6月20日でしたが,上野駅から都心の地下を掘り進み,秋葉原から地上に上がって,元の東海道線優等列車ホームの場所に新幹線ホームを作る工事は費用もかかる難工事でした。その後にもう1本ホームが増設されましたが,このときは赤レンガ駅舎寄りにあった中央線を3階に重層化し,在来線ホーム全てを1本ずつ西に移す工事を,列車を走らせながら完遂しました。費用がかかったことは確かですが,この費用を回収するためか,東北新幹線の東京~上野間には加算料金が設定されています。具体的には,JR東日本の新幹線各駅からの東京駅までの特急料金は上野駅までの特急料金に一律に210円アップです。自分のような神奈川県方面の者にとっては,上野駅の乗換えは少々面倒ですが,上野東京ラインができて便利になったので,最近は専ら上野駅利用です。なお,品川駅に関しては,JR事情で後から駅ができただけなので,このような料金差はありません。

190188.jpg
東北新幹線東京駅開業の朝とその日の特急券 1991.6.20
鉄道趣味に無駄遣いはつきものですが,これは究極の無駄遣いかも

5.新幹線特急券の指定席,自由席,立席(りっせき)と繁忙期,閑散期
 第9回で特急券の指定席と自由席,立席特急券,繁閑による加減について説明をしました。新幹線特急券でも基本は指定席,自由席と立席特急券は指定席から520円引きの考え方は同じです。また,繁忙期,閑散期の加算,減算も同様に計算します。

190706.jpg
東北新幹線「こまち」 @福島 2019.7.13

6.新幹線の特定特急券
 特急料金を特別に割引く特定特急券の制度は新幹線にもあり,基本的にはお隣の駅までの自由席を860円にするものです。実際にはいろいろな例外があり,一つは駅間が長く50kmを超える新横浜~小田原と米原~京都は980円,相生~岡山と小倉~博多は970円です。JR東海と西日本で10円の差があるのは面白いですが,統一してほしいところです。もう一つは,新富士,東広島,くりこま高原などの新設駅ができた場合で,これらの駅を挟む2駅間でも50km以下860円,50km超980円(JR西日本は970円)です。また,九州新幹線も例外が多く,そもそも特定特急料金は850円,博多~久留米は間に開業時からある新鳥栖駅があっても850円,整備新幹線区間の新八代~川内間には特定特急券の設定がありません(本則どおり1,230円の自由席特急券が必要)。また,北海道新幹線は全ての列車が全車指定席なので,立席扱いの特定特急券となり,値段は区間によりそれぞれ設定されています。この制度はあくまでお隣の駅までが制度のスタートなので,高崎~軽井沢間41.8kmなどの2駅乗っても50kmに満たない区間でも特定特急券にはなりません。冗長になるので本文中には表示しませんが,区間ごとの一覧表をこちらにまとめました。

190186.jpg
新幹線特定特急券
新幹線の1駅くらいなら在来線で行くことが多いので僕としては非常に珍しい1枚です

7.ミニ新幹線(山形・秋田新幹線)の特急料金
 山形・秋田新幹線(以降本項では両新幹線といいます)は在来線を改軌し,新幹線車両が直通できるようにしたものです。法律や旅客営業制度上は在来線の扱いで,線内で閉じた利用のときは在来線のA特急料金を適用します。しかし,新幹線と直通するメリットは大きくその利便を特急料金に反映させることは合理的です。単純に福島や盛岡までの新幹線特急料金と加算すると割高になってしまい,そもそも特急料金には指定席料金が含まれるという考えなのでこの分は二重取りになってしまいます。次回に詳細を説明するつもりですが,新幹線~在来線の乗継割引を適用しては逆に割引き過ぎになってしまいます。これらをバランスするため,両新幹線には特別な料金テーブルが設定されています。時刻表の営業案内にはいろいろなねだんが表になっていますが,実は単純で,東北新幹線から両新幹線にまたがって利用する場合の特急料金の基準額(指定席特急料金)を加算し,自由席や繁閑による加減は一律です。なお山形新幹線では自由席車を自由席特急料金で利用できますが,秋田新幹線では「こまち」は全車座席指定のため特定特急券という言い方をします。

190185.jpg
山形・秋田新幹線の特急料金のまとめ(福島または盛岡までの新幹線特急料金に表の金額を加減する)

8.新幹線特急券のネットやICカードへの対応
 このシリーズは基本的に旅客営業規則の規定を中心に解説してきましたが,今回は少し外れたところでネットへの対応について簡単に触れます。JR東海とJR西日本では東海道・山陽新幹線の利用者を対象にEXICサービスを展開しています。このサービスは大きく分けて2種類あります。1つは特急券と乗車券を包括して割引くEX予約で,きっぷを発券することなくICカードだけで乗車できる場合(本人のみのとき)と,一旦紙の特急券を発券する場合(会員以外が利用するときや複数人で利用するとき)があります。もう1つは予約の受付けだけをネットで行い,特急料金部分だけを対象とし,区間によっては割引価格になるe特急券サービスです。いずれの場合も,スマホを含むインターネット端末でいつでもどこでも予約ができるのと,紙のきっぷを発券するまでは何度でも無料で変更できるのは大きなメリットです。

190187.jpg
EX予約で包括料金適用の特急券・乗車券

 EX予約の包括料金は乗車券の区間が新幹線の利用区間と同一区間になるので,新幹線に乗る前や降りた後で同一市内の駅に行く場合はその区間の運賃が別途必要になります。一方,e特急券では乗車券はふつうの乗車券なので200km超の区間では○○市内から××市内ゆきになります。どちらが安いかは微妙で,EX予約のサイトには運賃・料金の比較機能のEX予約運賃ナビという機能も用意されています。また,これらの運賃・料金は繁閑による増減がないので,とくに繁忙期は有利になります。EX予約はクレジットカードが前提なので未成年者には敷居が高いですが,とても便利かつお得なので利用をお薦めします。

190705.jpg
「タッチでGo!新幹線」サービス利用開始登録票

 一方,JR東日本では概ね東京近郊区間と重なる東京~那須塩原,上毛高原,安中榛名間に「タッチでGo!新幹線」サービスを展開しています。これは予め利用登録をした交通系ICカードを使って,新幹線改札もICカードで通過し,カード残額から運賃・料金を引きおとすサービスです。交通系ICカードであればSuicaである要はなく,運賃・料金はEXICサービスと同様に新幹線駅から新幹線駅までの包括料金です。各新幹線は東京近郊区間に含まれないこともあり,入場駅~新幹線乗車駅,新幹線利用区間,新幹線下車駅~出場駅までの3つの区間に区切って運賃計算が行われます。スタートしたばかりのサービスなので,まだ詳細にサーベイはしていませんが,多少の割引きがあっても,総額では変わらないということもありそうです。また,利用できるのは自由席車のみなので,全車指定席の「はやぶさ」や「かがやき」は利用できません。

190193.jpg
各社のネットサービス画面(JR西日本5489サービス,JR九州ネット予約)

 気やすくネットやICカードへの対応を書き始めたもののサービスが多種多様で残念ながらすべてをフォローしきれません。また,この一連の連載は旅客営業規則,旅客営業取扱基準規程本文の規定を中心に書いており,これらに拠らない特別企画乗車券((企)きっぷ)は取扱う範疇の外としています。世はネットの世の中なので避けては通れないのですが,後日の課題としたいと思います。

190707.jpg
東北新幹線「はやぶさ」 @新花巻 2019.7.13

9.これからの新幹線特急券
 さて,毎回最後に書いているこの制度の今後です。「のぞみ」や「はやぶさ」などの速度の違い,ミニ新幹線の利便など,上に述べたルールにはそれなりの存在理由があります。それは分かるのですが,結果としてゴチャゴチャになって,僕の様な制度研究好きでも理解できない状況になっています。約款や料金表は分かり易く公平であることが大事なので,ここでは在来線も含めて大ナタを振るっての大改革があってもよさそうです。新幹線から在来線まで含めて優等列車を格付けし,格と距離だけのテーブルにするとかです。昔と違ってコンピュータが発達しているので,少々複雑なロジックでもコンピュータなら瞬時に計算できるので,これからはコンピュータを前提とした制度でもよいと思います。
 大きな整理は時間がかかるとして,分割民営化の悪弊の会社間のちょっとした違いの是正はJR各社にやる気さえあればできることです。例えば,新幹線特定特急料金の10円の差の解消などです。

190182.jpg
北海道新幹線開業の日に。右下はその日のきっぷ

 そして最後はこれまた国家ぐるみの大きな課題ですが,北海道新幹線の高い料金です。札幌までの全線が開業したとしても,このような料金水準で客がつくのでしょうか。鉄道交通は線で繋がるがるので,点と点を結ぶ航空では難しい盛岡~札幌や東京~長万部の移動には効果があると思いますが,これらの流動がどれだけあるのかです。大赤字の新幹線を維持するために,一つ一つを見れば小さな赤字の道内のローカル輸送を切り捨てるのでは本末転倒です。制度の話から,整備新幹線が必要なのかという話に飛んでしまいましたが,鉄道の今後を考えるうえで大事なことであり,各所で適切な議論がされることを望みます。

※ 1964年10月の東海道新幹線開業から1975年3月の山陽新幹線博多開業の前までは「ひかり」は超特急,「こだま」は特急の2本建でした。
(2019.6.16記)
知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則

知って楽しいJRの旅客営業制度9--急行券・特急券と周辺の規則

181001.jpg
1980年代の窓口風景(鉄道博物館・大宮) 2019.2.2

 JRの旅客営業制度の考察,9回目からは急行券とその周辺の制度について説明します。今回は少しそもそも話が多くなりますがお付合いください。今回は主に在来線の急行券・特急券,10回では新幹線の特急券,11回では急行券の割引きなどについて採りあげる予定です。

1.運賃と料金
 先ず対価の言い方ですが,1~8回目で採りあげた乗車券--A地点からB地点への輸送に関わる対価--については「運賃」,今回以降扱う急行,特急やグリーン車の利用に係わる対価については「料金」といいます。この連載ではこれらの使い分けに気を遣っているつもりですが,うっかり間違った所もありそうです。世の中一般でも使い分けはされておらず,「料金」は「運賃」も包含している場合が多いです。

181014.jpg
急行「東海2号」 @三島~函南 1996.3

2.そもそも急行列車とは
 旅客営業規則(以下,規)では第3条 用語の定義のなかで急行列車といったときには特別急行列車も含むと定義していますが,肝心な急行列車の定義はありません。仕方がないので以下は僕の定義です。そもそも急行列車とは速度が速いとか,駅を通過するなどダイヤの設定上,普通列車よりも目的地への到達時間が短く,かつそれを追加のサービスとして料金を収受する列車といえます。ずっと昔,国鉄の急行型電車が逼迫していた頃,新宿~甲府間急行の「かいじ」はスカ色の115系で運転されていました。年を経て国鉄の車両がある程度充足されると,デッキ付2つ扉,扉間はボックスシートが並ぶのが電車でも気動車でも急行型車両の標準設備になりましたが,昭和50年代頃までは非冷房の車両がふつうにありました。これが「急行列車」の標準的イメージです。これに対し「特別急行列車」は,到達時間が普通の急行列車よりも更に短いだけでなく,空調完備,座席は2人掛けのロマンスシートが標準で,設備についても追加サービスとして料金を収受する列車です。その証拠に,特急用の車両で運転する列車で冷房装置が故障し,他の車両が満席等の理由でやむなくその車両で旅行した場合,車掌が証明のうえ特急料金の半額を払い戻すという規定もあります(旅客営業取扱基準規程(以下,基)369条の3)。

181002.jpg
急行「ざおう」 @赤湯 1980.12.31

 今のJRの旅客営業規則の原型ができたのは1958年の大改訂のときです。1958年といえば「あさかぜ」の20系客車と「こだま」の20系電車(のちの151系,181系)が誕生した年です。当時は特急は日本に指折り数える本数しかなく,「36-10」(1961年),「39-10(新幹線開業)」(1964年),「43-10」(1968年)のダイヤ大改正を経て特急網を全国に整備するぞ!というときに制度面も整備したのでしょう。また,この頃の特急列車は全車座席指定が当たり前で,特急券といったら指定席であり,自由席特急券は(指定席の)特急券の520円引きというのが制度の建付けです。

150515.jpg
JR最後の定期急行「はまなす」 @青森 2015.5.2

 今ではJR旅客会社に定期の(普通)急行列車は1本もなく,定期の優等列車は全て特急という時代になってしまいました。しかし,みんなが使う「特急」という言葉は旅客営業規則に定義がないのに規則のなかでもふつうに使われていて,ちょっと不思議な扱いになっています。なお,「普通列車」についても同じ用語の定義で決められていて,「急行列車」以外をいうことになっています。各駅停車でも快速でも料金がかからない列車は全て普通列車ですが,あくまでも規定上の定義と考えれば分かり易い区分です。

181012.jpg
急行の入口表示。昔,九州に旅行に行ったとき買ったもの 1990年ごろ

3.急行券,特急券共通のルール
(1)急行列車の表示(規12条)
 急行列車は特別なサービスとして料金を収受しますが,それとは知らずに乗ってしまったお客さんには迷惑なことです。それを防ぐため急行列車には入口等の旅客の見やすい箇所に相当の表示を行うことになっています。なお,この入口等に表示のルールはグリーン車も同様です。

181007.jpg
定期券の裏の注記(通学用--かなり古いですが悪しからず) 

(2)急行列車は定期券で乗れない(規161条)
 急行列車は日常生活の通勤や通学で利用するのではなく,長距離の旅行をするときに使うものです。このため定期券では急行列車に乗ることはできず,たとえその区間の定期券を持っていたとしても,急行列車を使う場合は乗車券を買わなければいけないルールです。そうはいっても「踊り子」号や高崎線系統の列車などでは昔から通勤に使う人は多く,列車と区間を限って定期券での乗車可としています。以前は,時刻表にも定期券で乗れる急行列車には注記があったと思いますが,最近は定期券で乗れるのがふつうになってしまって,そんな注記も見かけなくなりました(僕の日ごろ使っているJTB時刻表では。ジュニアの使っているJR時刻表には今もしっかり注記があります。2019.3.9追記)。

1710AJ.jpg
急行「伊豆」~「踊り子」系統は昔から定期券で乗れた 1981.2

(3)急行券は1個の列車単位(規172条)
 急行券は1個の列車に1回限りしか使えません。新宿~松本の自由席特急券を持ってホームに行ったら,たまたま出るのが甲府ゆきの「かいじ」だったのでとりあえずこの列車で甲府まで行き,残りは後続の「あずさ」でというのはNGです。この場合は,新宿~甲府の「かいじ」の分と甲府~松本の「あずさ」の分の2枚の特急券が必要です。ただし,大阪・京都から宮津・城崎温泉に行く「こうのとり」や「きのさき」,「はしだて」ではこれらの特急を福知山で接続させて効率よく運転しているため,1枚の特急券で特急同志の乗り継ぎが認められています。この他,岡山・高松から宇多津・丸亀・多度津接続の予讃線・土讃線方面など運転系統がX(エックス)形の場合と,日豊本線の「ソニック」と「にちりん」など輸送量が異なるため運転系統が分かれれている場合があります。

181008.jpg
城崎温泉→京都の自由席特急券。福知山で乗り継ぎができるがとくに注記はない

(4)急行券の有効期間(規172条2項)
 座席指定のある急行券は,原則,指定列車に限り有効です。指定列車に乗り遅れた場合は,昔は無効でしたが,それではあまりにかわいそうということで,現在は当日の後続列車の自由席に限り利用可能です。座席指定のある急行券で,時間より早い列車の自由席に乗ってしまった場合は,ルール上は無効です。指定された席は誰にも使われないことになるので,事業者側にとってみれば当然のことです。しかし実態としては,無効扱いになって,別途の自由席の急行券を買わされたという話は聞きません。
 自由席の急行券は以前は2日間有効でしたが,前回2014年の運賃・料金改定のときから当日限りになりました。

181013.jpg
自由席特急券。左は2012年のもので2日間有効。
フォームが違うのは発行した機械の違いによるもの(左:短距離券用自動券売機,右:指定席券売機)

(5)急行券の前売り(規21条)
 座席指定のある急行券の売出し開始は1か月前の10:00です。1か月前といっても厳密にはいろいろな解釈がありますが,前の月の同じ日付の日,ただし3月30日など相応日がない場合は翌月1日です。新幹線開業より前は東京・秋葉原などに販売センターがあって駅から電話で申込みを受付け,手作業と台帳で座席を指定していたそうで,取扱える座席も限られていました。コンピュータによる予約システム--マルス--が登場してからは,その発展に合わせて収容できる座席の量も増え,7日前,7日前と1か月前の2つの枠の併存,全部1か月前と早まってきました。JR東日本の予約サイト「えきねっと」を使えば1か月前の更に7日前から「予約」ができるようになりました。

181009.jpg
えきねっと予約を使えば人気の指定券(臨時の快速)も比較的簡単に手に入る

4.急行券
(1)急行券の原則(規57,125条)
 JRの線路上に定期の急行列車がなくなったといっても,制度の基本なので急行料金に関する規定は残っています。50kmまで550円,100kmまで750円...の50km刻みで,201km以上は何km乗っても1,300円と至ってシンプルです。後ほど特急料金の項で詳しく書きますが,安い特急料金が増えたためむしろ急行券のほうが高い区間ができてしまい,JR東日本のB特急料金の区間に限っては50kmまで510円に値引きされます。
 また,急行料金は速達性に対する対価なので,指定席は追加のサービスという考え方です。このため,急行列車の指定席を利用する場合,急行券と指定席券の両方が必要--通常,物理的には1枚で発券されます--になります。

181010.jpg
十和田3号の急行券・指定席券(閑散期なので地紋が黄色) 1980年

(2)急行券の今日的意義
 今日のJRから急行列車が絶滅したかというと,そうではなく,ときどき臨時列車で急行列車が運転されます。設備の良い特急型車両を使うけど,特急料金をもらう程の長距離を走るわけでもない...そんなときに急行列車として運転することが多いようです。また,JRの会社によっても濃淡があり,JR東海は下に写真を載せた「御殿場線80周年号」や「飯田線秘境駅号」など,B特急指定区間がないこともあり,意外と急行が好きなようです。JR東日本は以前は急行で運転していた「ぶらり横浜・鎌倉号」を2018年から快速にするなど,あまり急行という種別を使わないようです。

181006.jpg
御殿場線80周年号 @沼津 2014.11.24

5.特急券
(1)A特急料金とB特急料金(規57,125条)
 特急料金は国鉄時代末期までは全国一律で,急行料金と同じような距離帯ごとのテーブルがあるだけでした。しかし,1982年4月の運賃料金改定時に,「踊り子」号,房総各線,九州内各線を対象に割安なB特急料金が設定され,それまでの本則の料金はA特急料金となりました。半年後の東北・上越新幹線大宮開業のときに「新特急なすの」や「新特急あかぎ」などが設定されました。こんな特急,新特急じゃなくて準特急だなどと揶揄されましたが,設定と同時にB特急料金適用になりました。その後,高速バスとの競争の激しい新宿~甲府(現在は竜王)間や新幹線接続のローカル区間の盛岡~青森間(現在は第三セクター化により消滅)など,JR西日本の関西地区などが追加され,今では下の地図の区間がB特急料金適用です。

181005.jpg
B特急料金の適用区間(JTB時刻表 2018年3月号から)

 また,JR化後は地域密着をうたうようになり短距離での利用が増えたため,3島会社を中心に距離の刻みを細かくしたり,短距離の区間も設定されるようになりました。反対にプレミアムをつけて高くても乗ってもらえる特急もあり,今ではたくさんの種類の特急料金が存在します。なお,A特急とB特急は区間を対象にしているのに対し,プレミアムな特急料金は基本的に列車の名前を対象にしています。このため,新宿から大月間を臨時の延長運転の「成田エクスプレス」に乗ったりすると,不必要に高い料金になるので要注意です。これらの何種類もある特急料金をまとめるのは難儀ですが,無理してまとめると下の表になります。

181004.jpg

 なお,通称の山形新幹線,秋田新幹線は法律や制度上は在来線なので,新幹線にまたがらなければA特急料金が適用されます。

190703.jpg
山形新幹線の自由席特急券。「幹在特」と印字されていますが,今もあるのでしょうか

(2)席の需給と特急料金(規57条の3)
 資本主義ではものの価格は需給で決まるのが原則ですが,特急料金にもこれと似たルールがあります。正月やお盆の混雑する時期は指定席の料金を高く,旅客の流動が少なく指定席に余裕がある時期は指定席の料金を安くするルールになっていて,それぞれ繁忙期,閑散期といいます。これらの期間と増減する金額は下の表のとおりです。

181003.jpg

(3)自由席特急料金(規57,125条)
 2.に書いたように自由席特急料金は本則の特急料金の520円引きです。自由席特急券は自由席車が連結されていることが前提なので,「はやぶさ」や「かがやき」などの全車座席指定の列車にはありません。なお,グリーン券や寝台券はそもそも指定席であるという考えのため,特急のグリーン車や寝台車を使うときの特急料金も指定席の特急料金から520円引き,結果として自由席特急料金と同じになります。

6.特別な特急券
(1)立席(りっせき)特急券(規57,125条)
 全車指定席の列車の(指定席の)特急券が売切れた場合,席数を限って発売されるのが立席特急券です。立席特急券は指定席が満席の時だけ列車を指定して発売されるものなので,制度的に自由席特急券とは異なります。字面は立席でも席に座ってはいけないという意味ではなく,着席を保証しないという意味であり,ノーショウ(no show,きっぷは買ったが何らかの事情で乗車しないケース)の席などに着席することはできます。そうはいっても列車ごとに収容できる旅客の数は限りがあるので,本当に混雑しているときには立席特急券も売切れになることがあり,この場合はその列車に乗ることはできません。

1602A8.jpg
上野~青森の「はつかり」の末端は空気輸送の日も多かった @八戸 1978.7

(2)特定特急券(規57,125条)
 かつては長距離を走る特急の末端の区間などで,輸送力は大きいのに需要が少ないため,特定特急券という割安な料金を設定していました。現在は長距離を走る特急も減り,短い編成の特急も増えたので輸送力の需給がバランスするようになりました。このため時刻表の営業案内ページに「特定特急券」という項目はなくなってしまいました。

181011.jpg
ご参考:昔の特定特急券(自由席とは書いていないが自由席車に乗るルール)

 反対に最近は特急料金を例外的に値引く区間が多数できました。時刻表の営業案内ページを開くといろいろな区間が掲載されているので詳細はそれによってください。主には以下の理由によるものです。
・相対的に割高に見える区間を値引きする(「スーパービュー踊り子」の100㎞超え区間など)
・短距離の自由席特急券を割安に設定する(JR四国の50kmまでや25㎞までの区間など)
・新幹線方式で運転される在来線区間(博多南,ガーラ湯沢)

181015.jpg
JR四国の特定特急券(25kmまで320円,50kmまで520円)

 この稿を書くためにJRの旅客営業規則を改めて見ましたが,急行料金の規定は新幹線から急行まで含めてたった1つの条文です。この125条は項目番号に(1)イ.(イ)a.(a)と5レベルも動員し,数表が9こもあり恐ろしく複雑です。更に,JR九州以外の25km区間については僕の見落としでなければ規定がなく,いわばヤミ割引きのようです。

151063.jpg
座席未指定券を扱う特急「ひたち」 @土浦 2015.10.24

7.最近の特急券(規125,172条の2)
 JR東日本の一部の列車(※)では,時刻表の表示上は全車座席指定として,自由席特急券を売らない代わりに「座席未指定券」(規では「未指定特急券」と呼ぶ)を発売します。これはインターネットなどの発達により,発車直前まで指定席をとれるサービスに対応するものです。この場合の特急料金は5.(1)のとおり随分割安に設定され,繁閑による増減がありません。「座席未指定券」を買って座席の指定を受けずに列車に乗ってしまった場合は,乗った列車の空席に座ることができますが,指定席券を持った旅客が来た場合はその席を空けなければなりません。これらの列車には駅で事前に特急券を買う事前料金と車内で特急券を買う車内料金があり,後者は一律に260円増しです。従来の日本の制度--車両ごとに指定席車,自由席車を指定する--からすると異質ですが,ヨーロッパなどの特急列車は昔からこれと似た制度でした。
※ 座席未指定券の対象列車:ひたち,ときわ,スワローあかぎ,
    (以下は2019年3月のダイヤ改正から)あずさ,かいじ,富士回遊,はちおうじ,おうめ
    成田エクスプレスも座席未指定券の扱いをしますが特急料金は本則のA特急

180407.jpg
「ときわ」「ひたち」の特急券のご案内

8.急行券・特急券のこれから
 さて毎度書いているこれらの制度のこれからですが,とにかくゴチャゴチャしているので何らかの整理が望まれます。実態として定期の急行列車は1本もないのに制度としては残っていて,制度疲労していると言われても仕方ありません。また,急行と特急で指定席に対する考え方が違ったり,自由席特急料金は一律520円引きで指定席・自由席のバランスがまちまちです。説明を端折りましたが,よく言えば地域密着で会社ごとに,悪く言えば分割民営化の悪弊でJR各社が好き勝手に設けた例外が多くあって,全く整理されていないというのが現状です。
 かといってどのように整理するかというアイディアはあまりありません。B特急のように特急のランク付けをもっと細分化し,ランクによって当てはめる料金テーブルを変えるなどすれば整理はできそうです。なお,ランク付けすると言っても,特急の列車名ごと,線区ごとなど何通りかあり,それぞれ一長一短があります。(2019.2.9記,2019.7.7きっぷの画像追加)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則

知って楽しいJRの旅客営業制度8--新幹線と周辺の乗車券の規則

180358.jpg

 新幹線は日本の誇る鉄道技術の賜物ですが,新幹線に関連していくつかの乗車券のルールがあります。JRの旅客営業制度の考察8回目はこれらについて見てみます。

1.幹在同一原則(旅客営業規則(以下,規)16条の2)
 いきなり難しいタイトルから始まりますが,これは旅客営業制度上は新幹線と在来線を同じものとして取扱いますよ,ということです。新幹線の線路は速度向上のためにカーブは原則として半径2,500m(東海道新幹線)とか半径4,000m(それ以外)以上とし,まっすぐに山をトンネルで貫き,谷を長大橋で跨ぎ敷かれています。これに対し,在来線は多かれ少なかれ,急勾配を避け,街を縫い(とても昔は蒸気機関車の煙を忌避され街外れを迂回し?)敷かれていました。このため一般に新幹線の線路は都市間で見ると短くなっています。例えば,東海道新幹線では東京~新大阪間は在来線の552.6㎞に対し新幹線では515.4㎞(率にすると6.7%短い)です。しかし,東海道新幹線ができたとき,旅客営業制度上はこれらを区別せず同じものとして扱うことに決めたのです。

180351.jpg
随分古い写真ですが...100系試作車登場の頃 @東京第2運転所 1980.4頃

 例えば,東京~品川間は東海道本線のほかに京浜東北線,山手線,横須賀線の電車もそれぞれ複線の線路を持ちますが,建前上は全て東海道本線です。場所によってはちょっと違った場所を通っても,これと似たような考えで同じとみなすわけです。

180360.jpg
いろいろな電車が並ぶが全て東海道本線 @浜松町 2018.1.17

 上に書いたように,新幹線のルートは短いので,新幹線経由の旅客は余計な運賃を支払わされている勘定になります。しかしながら,お客さまにどちらのルートで行くかを訊ねながらきっぷを売るのは駅の発券業務に馴染みません。新幹線を予定していたけど遅くなったので在来線の「銀河」で,とか,節約のため在来線でという変更の可能性もあります。また,別の経路とした場合,往復割引はどうするのかといった問題もあります。総じていえば,幹在同一原則は理にかなったものと思います。

180352.jpg
北海道新幹線も整備新幹線の一つ @新函館北斗 2016.3.29

2.幹在同一原則の範囲と整備新幹線(規16条の2,規16条の4)
 幹在同一といっても,最近開業した新幹線では並行在来線は第三セクター化されてしまって,在来線はJRの営業線区でありません。そのため,主に国鉄時代に開業した新幹線が幹在同一原則の範囲で,通称で整備新幹線と呼ばれるJRになってから開業した新幹線では,規16条の4で「それぞれ単一の線路として旅客の取扱いをする」と定められています。九州新幹線には例外の区間もあり,まとめると下の表と図のようになります。

180357.jpg
180362.jpg

3.幹在同一原則の例外(1)--在来線駅と離れた新幹線駅を含む区間(規16条の2の2項)
 幹在同一といっても新横浜や新神戸のように物理的に離れた所に新幹線の駅がある場合は,別の線路として扱わなければいけないこともあります。このため,規16条の2の2項ではこれらの駅を発駅若しくは着駅又は接続駅とする場合は、線路が異なるものとして旅客の取扱いをすることとしています。規定ではこれらは区間で表されて(1)品川・小田原間(筆者注:新横浜を指す,以降も同じ),(2)三島・静岡間(新富士を指す)と区間で示して,(16)筑後船小屋・熊本間(新大牟田,新玉名を指す)まで16の区間が定められています。

180359.jpg
第5回「区間外乗車のいろいろ」のうち4.選択乗車(規157条)から

 これらの区間には第5回で紹介した選択乗車が設定されていて,実態としてはきっぷの表示に拘わらず,新幹線でも在来線でも選択して乗れることになっています。そればかりか,新幹線で来て新神戸で途中下車後,在来線の神戸から続きを乗車するケースも認められるようになっています。詳細は第5回の4.選択乗車を参照ください。なお,このようなときの新幹線駅~在来線駅間の移動に関しては何も言及されておらず,素直に解釈すればその分の費用は旅客の負担と考えられます。

4.幹在同一原則の例外(2)--新下関~博多間(規16条の3)
 これも第4回の4.往復割引の項で少し触れましたが,新下関~博多間は新幹線はJR西日本の営業する山陽新幹線ですが,在来線はJR西日本の山陽本線とJR九州の鹿児島本線です。この2社の間では賃率が異なるため,運賃も異なります。このため,新幹線と在来線を別の線路として運賃計算をしますが,往復割引の適用や運賃計算をするときの営業キロの考え方--環状1周になったら計算打切り--などは,同一のものとして扱うという規定です。

180361.jpg
新下関~博多間を含む往復乗車券(往路は新幹線経由,復路は在来線経由)
試みに博多~小倉の往復乗車券(上段)を都内のある駅で買ったところ,連続乗車券でないと発券できないとの由でした。興味が興味を呼びそれならば往復割引適用ならどうなるかと博多~大阪(下段)も買ってみました。普通の往復乗車券にはない注記がたくさんあって興味深いです。220円でこれだけ楽しめれば安いものですが,応対してくださった駅のご担当には申し訳ないことをしました...

5.幹在同一原則の例外の例外--東広島~広島~呉線へ乗継ぐケース(旅客営業取扱基準規程(以下,基)151条ノ2)
 これも既に1度触れたものですが,第6回の2.分岐駅通過列車の区間外乗車(基151条)の特例です。元々,広島駅と呉線の分岐する海田市駅の間には分岐駅通過列車の区間外乗車の特例が設定され,幹在同一原則により,広島へ新幹線で来ても適用されました。しかし,1988年に在来線と接続しない東広島駅ができ別線扱いになってしまったため,東広島~新幹線~広島~海田市~呉方面の経路が構成できるようになりました。ルールどおり計算すると東広島駅ができたばかりに値段が上がってしまいます。基151条ノ2は,例外的に新幹線の東広島~広島間を在来線と同じとみなして,新幹線で来ても海田市における分岐駅通過列車の区間外乗車の特例の取扱いを有効にしているのです。

160137.jpg
当ブログ「分岐駅通過の区間外乗車と復路専用乗車券(2016.1.30)」から

 分岐駅通過列車の区間外乗車特例が設定され,かつ関連の新幹線の駅が在来線と別の場合にこういうケースが発生しますが,敢えて例外の例外の規定を設けているのはここだけです。呉線への乗継ぎ需要が大きく,東広島が後発の新設駅ゆえの特別な規定なのでしょう。

6.ミニ新幹線(新在直通運転)
 山形新幹線と秋田新幹線は一般に新幹線と案内されますが,法律上も旅客営業制度上も新幹線ではありません。在来線でありながら軌間(線路の幅)を新幹線と同じ標準軌として,新幹線車両が直通できるだけです。対東京の輸送に関しては便利になった反面,域内の輸送では乗換えが増えたり,貨物列車が運転できなくなったりの弊害もあります。フル規格の新幹線は当分実現しそうにないので,ミニでも早くに新幹線を実現させたこの2線の後はあまりミニ新幹線の話は聞きません。

170563.jpg
新庄駅。新幹線と在来線の乗換えが便利なように工夫されている 2017.5.4

7.その他の新幹線車両が走る区間
 下の2つの区間も新幹線電車で運転されますが,営業制度上は在来線です。走る列車は全て特急扱い,かつ石勝線のような救済措置もないので青春18きっぷでは乗れません。また,電車は全て新幹線電車なので,運転士さんの免許は「新幹線電車」の動力車操縦者運転免許が必要だそうです。重箱の隅をつつくような話ですが,いろいろな例外があって面白いです。
 博多南線 博多~博多南 (JR西日本)
 上越線  越後湯沢~ガーラ湯沢 (JR東日本)(季節営業)

180363.jpg
博多南線開業直後の福岡・唐津ミニ周遊券
改訂が間に合わず,見逃してしまいそうですが小さく手書きしてあります。
190701.jpg
ガーラ湯沢駅開業初日のきっぷ
他の件できっぷ箱を見ていたらたまたま出てきたもの。忘れていましたが,初日に行っていたんですね

8.新幹線経由の乗車券の表示
 1987年の分割民営化により,上の4.のように新幹線と在来線の事業者が異なる区間ができました。これらの区間は,幹在同一原則がありながら,JR会社間での運賃収入配分のために新幹線と在来線を区別する必要があります。このため乗車券の経由欄には「新幹線」の表示がされるようになりました。旅客にとっては選択乗車のルールがあるのでどちらでもよいのですが,JRにとっては正しい運賃収受という点で制度的に必要なのでしょう。
 東京~熱海  JR東海(新幹線)・JR東日本(在来線)
 米原~新大阪 JR東海(新幹線)・JR西日本(在来線)
 新下関~博多 JR西日本(新幹線)・JR九州(在来線・下関以西)
 JR発足時には旅客営業規則にも条文を作って,これらの区間の在来線経由の乗車券を持った乗客が新幹線に乗車する場合は,新幹線改札で「新幹線振替票」を交付し,新幹線下車駅でそれを回収するルールとしました。実態としてはそのようなルールは運用できなかったらしく,1年で廃止されてしまいました。それに代わり,マルスで発券する乗車券でこれらの区間を通過する場合は幹在の別を表示し,在来線経由の乗車券で新幹線に乗った場合は車掌がきっぷの表示を修正する取扱いとしました。これがきっぷに表示される四角マークです。四角マークは4つ(特急券一体型では3つ)で組になっていて,それぞれが左から,東京~熱海,米原~新大阪,新下関~博多を表し,黒く塗りつぶされていれば新幹線経由,枠だけなら在来線経由です。なお,4つまたは3つの組はall or nothingで,1つとか2つで駅単位の区間を示すようなことはしていません。

180353.jpg新幹線経由在来線経由の表示の四角マーク(左が新幹線経由,右が在来線経由)
上は顧客操作型のMV端末なので希望を込めて在来線としたのではないかと思われます。
下はどちらも呉駅発行ですが,どちらも社用なので在来線で行くはずはなく,どうして在来線なのかナゾです。まさかJR西日本としてはそのほうが得だからということはないと思います。


 発券時点でもかなりいい加減だし,車掌が表示を塗りつぶしている姿も見たことがありません。また,在→幹は塗りつぶせば済みますが,幹→在はどうするのでしょうか。この仕組みも計画倒れで,正しく運用されているとは程遠い状況です。しかしながら,新幹線・在来線間の変更がそう頻繁にある訳でもなく,幹→在と在→幹で頻度が大きく違うとも思えず,ある面「お互いさま」なのではないでしょうか。また,こういうルールを設けることで,恣意的に一方に有利な発券はさせない抑止力にはなっていると思います。

9.新幹線と大都市近郊区間
 大都市近郊区間は第1回でも説明したように,区間内でクローズする乗車券に対してはいろいろな特例があり,まとめると下の表のようになります。新幹線が大都市近郊区間に含まれるか否かで,これらの取扱いが変わってきます。

180356.jpg
大都市近郊区間とふつうの乗車券の取扱いの違い

 例えば高崎~大船間を全て在来線で行けば東京近郊区間相互発着になりますが,高崎~大宮間を新幹線経由とすることで東京近郊区間でクローズしない,すなわち乗車券の本則どおりの有効期間2日,途中下車も可になります。その代わり,磯子に帰るために運賃計算は遠回りの根岸線を選択,東海道線戸塚経由は使えません。

180355.jpg
経路の一部を新幹線経由とすることで乗車券の本則どおり有効期間2日,途中下車可

 JR発足時に東海道新幹線がJR東海の営業になったので,東京近郊区間からはずれましたが,2004年3月の制度改訂からは,米原~新大阪と西明石~相生だけが大阪近郊区間に残り,他の新幹線区間は全て大都市近郊区間外となりました。幹在同一原則と選択乗車の制度があるので,新幹線経由とするか否かで乗車券の効力としては変わりはありません。大都市近郊区間とするか否かのどちらがメリットがあるかで買い分ければよいと思います。

10.これからの新幹線に関する制度
 毎回,採りあげた制度の今後について書いていますが,新幹線と周辺の制度に関しては,ここをこうすべきという点がありません。ただ,8.や9.の点など多くの矛盾があるので,きれいに整理できるとよいとは思います。本文中では採りあげませんでしたが,次のケースも一つの矛盾だと思います。新幹線で行って,手前の駅に戻ることはよくあることです。静岡の一つ手前の東静岡の場合,新富士(在来線と離れた駅)~静岡~東静岡という経路が成り立ちますが,掛川の一つ手前の菊川の場合,静岡(在来線と同じ駅)~掛川~菊川という経路は復乗になってしまい1枚の乗車券にはなりません。JRの制度ご担当もこれらの矛盾点は分かっているでしょうから,今後の整理に期待です。(2018.10.13記,2019.7.7きっぷの画像追加)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則

知って楽しいJRの旅客営業制度7--特定市内駅と駅に関わる規則

180151.jpg
東京駅で。右肩の「山」と「区」が東京山手線内と東京都区内を表す 2018.1.17

 JRの旅客営業制度の解説7回目は特定市内駅とその周辺を中心に駅に関わる制度についてみてみます。こうして整理してみると,意外といろいろなルールがあることに驚きです。

1.特定市内駅発着の乗車券(旅客営業規則(以下,規)86条)
 特定市内駅のルールは,旅客営業規則で指定された全国11の特定の市については,各々の市の中心駅から201km以上の乗車券はその中心駅からの距離で計算するというものです。長距離のきっぷで目にする「東京都区内」発のきっぷなどがこれにあたります。例えば,東京都区内の場合,東海道線では蒲田,中央線では西荻窪までが東京都区内の駅です。昔は乗車券はあらかじめ印刷された常備券だったのでたくさんの種類を用意するのは事業者側の負担が大きかっただろうし,200kmを超える長距離では個々の駅ではなく,大雑把に大阪とか広島といえばその周辺の市内駅も含まれるのは利用者から見ても理にかなっています。

180152.jpg
東京都区内の駅(JTB時刻表2017年10月から調製)

 ちなみに,西荻窪(東京起点20.6km)が最寄り駅の人が中央線方面に行く場合は随分損をしたような感じがしますが,東海道線方面に行く場合は随分お得な計算になります。西荻窪は極端な例で,多少の損得があっても,長い目で見ればプラスマイナスゼロのようでもあります。上に書いたようなメリットもあるので,合理的なルールと考えます。

2.特定市内駅の定義
 現在,東京市というのはないので東京は東京23区内の駅を東京都区内といっていますが,規86条ではその他に北から札幌,仙台,横浜,名古屋,京都,大阪,神戸,広島,北九州,福岡の10市が指定されています。概ね100万人都市ですが,現在11ある100万人都市とは微妙に異なります。川崎市は人口150万人の大都市ですが,市の中心部の川崎区と幸区の一部が横浜市内に組み込まれているだけで,特定市内には指定されていません。さいたま市も120万人都市ですが特定市内に指定されておらず,反対に北九州は人口95万程度ですが特定市内です。浦和,大宮,与野の3市が合併してさいたま市になったのは2001年(その後,岩槻市も編入)です。また,北九州は現在は人口が減少しているので,以前は100万人都市だったのでしょう。人口の増減の度に特定市内の指定を見直ししていたのでは,規則としての安定を欠くのでやむを得ないこととも思います。

180153.jpg
日本の市の人口ランキング

3.特定市内駅の範囲
 特定市内駅はあくまでもJRの規則上の設定なので,実際の市域とは異なるケースもあります。2.にも書いたように,横浜市内には川崎市の中心部が含まれます。実は南武線の矢向駅は横浜市内にあるため,厳密に市域どおりの設定とすると矢向駅の扱いに困ります。また,川崎市は多摩川に沿って細長い形をしているので,川崎駅を中心駅として特定市内としても,JRとしてはただで乗られる区間が増えるばかりでメリットがないのかもしれません。同様の例が神戸市の道場駅で,市の北のはずれをかすめて通る福知山線にある道場駅は神戸市内から除かれています。この他,大阪の新加美と福岡の姪浜~周船寺の各駅も,行政上は市内にありながら,特定市内駅からは除かれています。これらはいずれも市の中心駅から市域を出ずにJR線で行くことができない駅です。

180154.jpg
川崎市の地図

 また,広島には周囲を広島市に取り囲まれた府中町や海田町があり,その中にある向洋,海田市の2駅も特定市内駅のルール上は広島市内になっています。更に市町村の合併で市域が広がった市もあり,それらについては小まめに市内駅に取り込まれています。仙台市は昭和の末期に泉市,宮城町,秋保町を併合しましたが,その結果,山形県と接する仙山線の奥新川まで33.8kmが仙台市内になりました。

180155.jpg
市内駅の範囲が広がった仙台市内(JTB時刻表2017年10月から調製)

3-1.200kmにちょっと足りないときは要注意(この項2018.6.15追記)
 先日,静岡県の掛川に行ったときに珍しいケースに遭遇したので追記します。自宅最寄りの磯子~掛川は新幹線を使わずに大船経由で195.4kmですが,対キロの運賃表にあてはめた3,350円ではなく,3,670円がふつうに乗車券を買ったときの運賃です。これは,掛川~横浜間が200.5kmあり,横浜市内の中心駅から200kmを超えるため,市内発となってしまうからです。この場合,200km以下の120,140,160,180,200㎞のいずれかで切れば特定市内駅適用の弊害を防ぐことができます。今回は磯子~焼津159.8km2,590円,焼津~掛川35.6km670円で合計3,260円としました。みみっちい話ではありますが,それだけの距離を乗った訳でもないのに,妙に高額の運賃を払うのは避けたいです。

180530.jpg
200kmぎりぎりの時は乗車券を分けると有利になるときがある

 なお,事前にきっぷを買わずに精算する場合,このケースはJR東海エリアにかかっていたので別途方式での精算ができますが,JR東日本の東京近郊区間内の場合は原券控除方式での精算なので,結局支払額は3,670円になります。私見ですが,大都市近郊区間であっても原券が101km以上なら別途方式で精算するか,大都市近郊区間内の場合は特定市内駅を適用しない,というルールとしてもよいと思います。
 更に200kmを超えるケースでも,場合によって不利なケースがあるので,追補を起こしました。こちらも参照ください。

4.東京山手線内(規87条)
 特定市内駅と似たルールに東京山手線内があります。201km以上だと東京都区内発着になるので,東京山手線内は101km~200kmの乗車券が対象です。山手線内の範囲は簡単で,山手線電車の路線の内側です。ちなみに,高崎(東京起点105.0km),宇都宮(同109.5km)からの帰りですが,東京山手線内ゆきとすれば山手線内で最初に降りた駅で旅行終了,きっぷは回収ですが,大井町ゆきとすれば同じ値段で東京大循環のルールが使え,山手線内(反対まわりも可)の各駅で途中下車ができます(ただし,今は200km圏内のほとんどが東京近郊区間になってしまったので,新幹線経由の場合に限ります)。

5.大阪駅周辺のルール――新大阪(規88条)と北新地(規89条)
 東京が101km超の区間に対して東京山手線内発着というルールを設けているのに対し,大阪には大阪駅と新大阪を同じにみなすというルールがあります。具体的には,新大阪から姫路以遠の200km以下の各駅への運賃は大阪起点で計算するというものです。多分,1964年に東海道新幹線,新大阪駅が開業した時,新大阪駅は大阪駅より3.8㎞東にあるので,姫路方面に西下するお客さんが割を食うのを救済するために設けられたルールだと思います。そもそも姫路駅自身が大阪駅から87.9kmで,新大阪起点とすると90kmを超え運賃帯が変わってしまう,こんな事情もあるようです。
 そのような環境にありながら,1997年3月にはJR東西線が開業しました。北新地駅は大阪駅至近にありながら,線路が遠回りするため尼崎までの距離は東西線のほうが1.2km長くなっています。この差を吸収し,大阪でも北新地でも同じ運賃で構いませんというルールです。上(88条)は姫路以遠であるのに対し,こちら(89条)は方向は加島まわりで尼崎方面と規定されていますが,距離の制約はありません。尤も,201km以上では大阪市内発になるので,変わりありません。この規定はあってもなくてもあまり変わらないと思いますが,88条とのバランスを考慮したのだと思います。

180156.jpg
規88,89条関係の路線図

180157.jpg
大阪駅風景。最近改装されて,とてもきれいで賑やかになりました 2017.12.14

6.特定市内発着の乗車券での乗継ぎのための復乗(旅客営業取扱基準規程(以下,基)150条)
 ところで,東京都区内の大森や蒲田から東海道新幹線を利用するとき,新横浜に出るのは面倒なので,品川や始発の東京駅に出ることはふつうに考えられることです。しかし,規定を厳密に解釈するとこれらの駅から品川や東京までの乗車は往復乗車(復乗)となってしまい,別途の運賃が必要になります。別途の運賃を収受してもお客さんのメリットでないしチェックも難しいため,新幹線などで長距離を旅行するお客さんなので大目に見ようというルールがあります。この規定は「旅客営業規則」の規定ではないため開示されていませんが,たまたまインターネットで勉強し,近所の駅に行って確認させてもらったものです。
 
「特定都区市内発着又は東京山手線内発着となる普通乗車券を所持する旅客が列車に乗り継ぐため,同区間内の一部が復乗となる場合は,別に旅客運賃を収受しないで,当該区間について乗車の取扱いをすることができる(基150条)」

 旅客営業規則の規定と違い,かなりアバウトな規定ですが,どう転んでも市内駅の範囲からは出ないので,至当な内容だとは思います。しかしながら,自分の手許にある1993年版の規定集では150条は「削除」となっており,この150条は1993年以降に設けられたようです。いつ新設の条文なのか分からないのですが,グレーなものを白と明確化する方向であり,歓迎です。

180158.jpg
浜松町で。新幹線に乗るための復乗はふつうにある 2018.1.17

7.特定市内駅で途中下車した場合の扱い(規166条)
 特定市内駅発着のきっぷには「券面表示の都区市内各駅下車前途無効」と書かれて,発着地の市内では途中下車ができないルールです。しかし,何かの事情でどうしても下車しなければならないこともあり,とくに発地の場合は何百㎞あるか分からない長距離のきっぷで前途無効は困ります。実際に北海道旅行に行こうと都区内発のきっぷで入場した後で,上野駅に着いたらアメ横で雪靴を買おうと思いたったことがありました。このような場合に,乗車駅から下車駅までの運賃を支払えば,その長距離のきっぷは使わなかったことにする取扱いです。この場合は,きっぷに入れられた鋏(今は日付スタンプ)をなかったことにするという意味で「誤入鋏」という印を押します。なお,この場合で入鋏は取消されても,払戻し等の手続きも含めきっぷ自体は使用開始後とみなすルールです。

180159.jpg
「誤入鋏」印の例。自動改札に通した後で,旅行をやめたケース(京急)

8.臨時乗降場発着の運賃(規71条)
 JRの規則では駅と駅の中間に臨時に乗降設備を作った時のルールも作ってあります。このような所を臨時駅とか臨時乗降場といいますが,早春の観梅のシーズンだけ営業する水戸の近くの偕楽園などが有名です。手許のJTB時刻表2017年10月号の索引地図を紐解くと下の各駅が臨時駅として掲載されていました。
 原生花園    (JR北海道 釧網本線)
 ラベンダー畑  (JR北海道 富良野線)
 猪苗代湖畔   (JR東日本 磐越西線)
 ヤナバスキー場前(JR東日本 大糸線)
 偕楽園     (JR東日本 常磐線)
 池の浦シーサイド(JR東海 参宮線)
 バルーンさが  (JR九州 長崎本線)

180162.jpg
ヤナバスキー場前駅 2008.2.9

 これらの臨時駅には営業キロが設定されておらず,運賃計算をするときはその外側の駅を基準に計算することになっています。外側とは,例えば赤塚~水戸間にある偕楽園駅の場合,東京方面から偕楽園までの運賃は偕楽園の先の水戸まで,偕楽園から水戸方面への運賃は偕楽園の手前の赤塚からの運賃になります。

180371.jpg
1925年開設のしにせ,偕楽園(臨)駅。最近リニューアルされたようです 2018.3.25(3.26,写真追加)

 民営化前の北海道には各地の鉄道管理局が設置した臨時乗降場がたくさんありましたが,これらの乗降場の多くは分割民営化の前後に正規の駅に昇格し営業キロが設定されました。しかし,過疎化による利用者の減少とJR北海道のコスト削減策のため,最近は駅が廃止されたり,運転上の設備は活かしたまま客扱いを止め信号場になったところもあります。また,北海道以外でも仙山線の面白山高原や五能線の千畳敷など分割民営化前からの臨時駅は駅に昇格などで整理され,現在の臨時駅はJR化以降設置のものが多いです。最初に出した偕楽園は国鉄~JR一貫して臨時駅ですが,ホームが下り線にしかないので,駅に昇格させることができない事情があるのでしょう。

170870.jpg
天塩川温泉駅 2017.8.3

9.最近のJR東日本の新設駅(根拠規定なし)(これは誤り)
 6.でJRの制度ご担当を褒めたばかりですが,今度は困ったルールをひとつ。2016年3月26日のダイヤ改正で南武線浜川崎支線に小田栄という駅が開業しました。この駅発着の運賃はお隣の川崎新町の運賃を適用するというものです。根拠となる規定はなく,適用期間も当面の間ということです。この特例は運賃を片側に寄せるので川崎新町と反対の浜川崎側では一部の駅で割高になる弊害が出ます。当ブログとしては繰返しになるので詳述は割愛しますが,興味のあるかたは開業初日に訪問したときの記事(こちらの一番最後のほうです)をご覧ください。

160341.jpg
開業初日の小田栄駅 2016.3.26

 困ったルールだと思っていたところ,今度はこの4月1日に両毛線に開業するあしかがフラワーパーク駅も同様の扱いとなるようです。あしかがフラワーパークの場合は0.9kmしか離れていない隣の富田駅の運賃を適用,期間は当面も同じです。小田栄の場合は,割高になる浜川崎側の線路網が殆どないし,200kmを超えたら横浜市内発着なので実害はしれています。しかし,あしかがフラワーパークのほうは深刻で,影響は大袈裟にいえば全国に及び,この0.9kmの間に運賃の境がおちると正規運賃と差が出てしまいます。下に両毛線(一部,上越線含む)各駅からあしかがフラワーパークへの営業キロをまとめてみました。偶然ではありますが,小山方の利用者にとって得になる駅は1駅もなく,損になるサイドでは高崎,前橋という需要の大きそうな駅が両方とも該当になりました。

180163.jpg

 小田栄駅は「戦略的新駅」という触込みで,従来の100%地元負担の請願駅と違い,JRと地元が折半の負担だそうです。その「戦略的新駅」との関係で地元の顔でも立てたのかと穿ってみていました。しかし,あしかがフラワーパークの場合は「戦略的新駅」というフレーズはお目にかかりません。上の表を作っていて感じたのですが,新駅が開業すると当該駅までの運賃(営業キロ)を確認し,各駅からの運賃一覧表を更新する作業が発生します。ところが,この特例を設けておけば,隣と同じと一言で済みます。この作業を全国規模で行わなければならず,その実務が大変なので,その作業を先延ばししたのではないでしょうか。いつか時間のあるとき,JRにこの特例の設定の理由を問合わせてみたいものです。
(2018.3.26追記)
 小田栄とあしかがフラワーパークに関して根拠規定なしとしていますが,これは間違いで,規71条(1)に以下のただし書きが追加されていました。「ただし、別に定める場合は、その乗降場の内方にある駅発又は着の営業キロによる」。いつ追加されたのかは分かりませんが,小田栄を念頭においたルールです。また,具体的なケースについては,「別に定める場合は」となっていて,インターネットなどの情報では基110条の2も新設されたそうですが,確かめる術がありません。また,JR東日本高崎支社のあしかがフラワーパーク新設のプレス(2017.12.7付)では戦略的新駅という言葉を使っていませんが,地元の下野新聞の記事によればこの駅も戦略的新駅だそうです。いずれにしても,付け焼刃的な条文新設で逃げるのではなく,早々に本則どおりになるのを期待します。
(2020.3.1追記)
 2020年3月のダイヤ改正に合わせ,小田栄駅とあしかがフラワーパーク(以降,あしかがFP)駅に関する特別な取扱いが終了し,当駅から/への営業キロによる通常の取扱いになることがリリースされました(小田栄:1/28横浜支社,あしかがFP:1/31高崎支社)。横浜支社の小田栄については「本設」(今までは仮?)という言葉を使っているのに対し,あしかがFPはこの言葉は使っていなくて,支社による微妙な違いも面白いです。どうせなら,先般の運賃改定のときにやった方が手数がかからなかったと思いますが,喜ばしいことです。どちらのリリースにも差額が発生する区間の一例という表が付され,今後値上げになる分の案内だけでなく,とり過ぎていた分の白状もあるのは透明でよいと思います。自分も気づきませんでしたが鶴見から小田栄までの営業キロは3月13日までの特例と3月14日以降の本則で最短ルートが異なり,その差は0.1kmです。また,小田栄は横浜市内駅の扱いなので営業キロ200km超ではこの差は意味を持ちません。この0.1kmがインパクトのある駅は極めて少ないと思われますが,たまたま熱海が該当で90.1kmが90.0kmになり,170円も安くなるそうです。制度の改訂で高くなる駅に対しては,戦略的新駅の開業サービスで安くしていたのを本則どおりに戻しますで済みますが,今までとり過ぎていた分については説明が難しいです。いずれにせよこの悪しきルールが解消されるのを喜ぶと共に,JRもこれに懲りて以降,このようなしょうもない制度を作らぬことを期します。また,規71条「営業キロを定めていない区間の旅客運賃・料金の計算方」にもこの取扱いの根拠となる「言い訳」のただし書きが付されましたが,これが削除されることを期します。
200251.jpg
(2020.5.24追記)
気になるので規71条(1)ただし書きの今後についてJR東日本に聞いてみましたが,この条文を削除する考えはないそうです。(1)本文で,外方と決めておきながら,ただし書きで「別に定める場合はその内方による」では,何でもありでルールになっていないと思うのですが。昔ならJRの担当は縁遠い存在でしたが,今はネットで問合せができるので,便利かつオープンな世の中になったものです。
(追記おわり)

10.無人駅ときっぷの丸ムマーク
 駅に関するルールをおさらいしたついでにきっぷに書いてある丸にムの印について触れておきます。これは駅員無配置の駅で買ったきっぷであることの表示です。とくに旅客営業規則や旅客営業取扱基準規程に規定されている訳でもなく,必須のものでもないようですが,以前このムって何だろう?と思ったので書いておきます。なお,駅員無配置駅には無人駅のほか簡易委託駅――JRの社員の配置はなく,駅業務の委託先の人がきっぷの販売などを行う駅――も含まれます。丸ムマークがあってもきっぷの効力に特段の違いはありませんが,以下の2点から駅員無配置駅発を明示しているのでしょう。
・発売される券種が限られることから,着駅や車内で精算になることが多いですが,乗客としては目的地までのきっぷを買う術がなかったことを示す。
・規定の解釈や取り扱いについて疑義を生じたときは,発駅の社員>着駅の社員>乗務員(車掌やワンマン列車の運転士)の順に優先されます(基4条,この規定については後日,詳述しようと思います)が,最も優越的な発駅の社員は該当なしであることを示す。

180161.jpg
丸ムマークのついた乗車券。硬券の常備券,やわらかいペラ券,いろいろある

11.これからの特定市内駅
 市内駅の制度は発券業務の効率化への寄与が一番大きかったと思いますが,印刷発行機が主流になった今ではそのメリットはあまり感じられません。しかし,JR側も乗客側もある程度の範囲の駅をひとまとめに扱うことには一定のメリットがあります。例えば,一つの街の5km圏内に住む友人同士が長距離の旅行をするとき,それぞれの最寄り駅発着のきっぷをいちいち用意するのでは利用者も駅係員も煩わしいです。このためこのルールはしばらくは変わらないと思います。
 ただ,さいたま市のような例はあまりよいことではなく,行政の区割りの変更があったときは速やかに追随するのがよいと思います。時間が経ってしまうと設定によって不利益となる駅の利用者のクレームが多くなって調整に骨が折れそうです。尤も,さいたまの場合は,市の代表駅の浦和が市域の出口の近くにあるのでJRにとってデメリットが多い,市域から出る順路が東北本線と埼京線の2ルートあるなど,特定市内駅にしづらいことも窺えます。最後に9.に書いた小田栄,あしかがフラワーパークの当面のルールの早期撤廃を望みます。(2018.2.17記)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2

知って楽しいJRの旅客営業制度6--区間外乗車のいろいろ・その2

171077.jpg

 旅客営業制度の解説6回目は比較的マイナーな区間外乗車のいろいろについて説明を試みます。乗車券の経路は実際の乗車の経路どおりが原則ですが,利用者の便宜とJRの発券の合理化のため,乗車券に表示の区間以外の区間に乗っても構いませんという制度が多数設定されています。これらをまとめて(広義の)区間外乗車と呼ぶことにしましたが,今回は「旅客営業規則(以下,規)」本体ではなく,一つ格下の「旅客営業取扱基準規程(以下,基)」に規定されたものをとりあげます(規則と基準規程の違いについては前回を参照)。

1.特定の分岐区間の区間外乗車(基149条)
 JRの線路の配線の都合上,どうしても直接行けない区間および類似の区間に対して設定されています。最も典型的な例として武蔵白石を例に説明します。鶴見線の大川支線は武蔵白石~大川ですが,武蔵白石駅の大川支線用のホームは急曲線上に設けられていました。1996年にこの区間の電車を20m級の電車に置換た際,この急曲線が通れなくなってしまったので,大川支線の列車は武蔵白石を通過としたのです。このため浜川崎側から大川に行く場合は,武蔵白石~安善間を往復しないと行けなくなってしまったので,区間外乗車を認めるようにしたのです。

171083.jpg
武蔵白石周辺の線路と昔の大川支線の電車

 このような区間は数も限られているので,他の8つの区間も全部をおさらいしておきましょう。この規定は線路の配線が前提なので,対象区間を通る列車全てが対象となります。また,区間外乗車となっている区間では途中下車はできません。最初の(1)は比較的新しい規定で,仙石東北ラインに関するものです。東北本線と仙石線の間に短絡線を設けた際に東北本線側は松島駅のすぐ手前だったので起点を松島駅としましたが,ホームがないので運転上は塩釜駅で別れる形態にして,石巻方面から小牛田方面に行く場合の松島~塩釜間の区間外乗車を認めるものです。

171081.jpg
仙石東北ラインの渡り線部と専用のハイブリッドディーゼルカー @松島駅南方/石巻 2015.7.31

 次の2つは東北本線に日暮里駅のホームがないことに由来するものです。(2)は常磐線と東北本線相互間の乗換えに関するものです。実態として三河島方面と西日暮里,田端方面なら京浜東北線電車を使えば経路どおりに行けます。しかし,日暮里~赤羽間が69条の経路特定区間に指定されていること,新幹線があることから,随分大掛かりに範囲が設定されています。また,(3)は尾久駅だけを対象とした規定で,(2)とは別建てで規定されています。

 (4)は湘南新宿ラインに関する規定です。横浜方面から湘南新宿ラインの電車に乗ると,西大井の先で減速し,蛇窪という信号場で進行方向とは逆の右に曲がって,横須賀線の下をくぐってから大崎に出ます。気持ちとしては,西大井から大崎に直通しているのですが,運賃計算上は蛇窪信号場が品川駅構内の扱いのため(?),一旦品川に出て山手線で大崎に出る計算をします。このため西大井から田町に行くとき,たまたま来た電車が湘南新宿ラインの電車だったので大崎から山手線を使ったようなケースの救済のために,品川~大崎間の区間外乗車を認めています。もし,大崎~西大井間に独立した営業キロが設定されると,東京近郊区間の大回りルートにも影響しそうで夢は広がるのですが。

 (5)も横須賀線関係の規定で,横須賀線が鶴見駅を通過することに由来するものです。横須賀線はもともと品鶴(ひんかく)貨物線と呼ばれていた線路を旅客用に転用したもので,鶴見より南は東海道本線の扱いです。ところが,新川崎方面から来た電車ではいや応なしに横浜まで降りられないので,新子安,東神奈川,それに東神奈川からの横浜線方面に行く場合の区間外乗車を認めるものです。なお,冒頭に書いた武蔵白石はJR東日本のウェブサイトでは(5)と(6)の間に載っています。

171079.jpg
JR東日本管内にある特定の分岐区間。上記(1)~(5)の区間

171082.jpg
鶴見駅に横須賀線ホームはない @鶴見 2017.1.28

 (6)は関西の大阪環状線と関西本線の今宮駅に関するものです。冒頭の鶴見線のように全列車が通過する訳ではありませんが,大阪環状線の今宮駅が新しく(1997年)に設けられたホームで,乗換えが不便なのを嫌って新今宮まで往復する人の便を図っての規定です。

180341.jpg
今宮駅のホームは立体交差上にあって,変則的なホーム配置 @今宮 2018.3.15

 (7)は瀬戸大橋線に関するものです。瀬戸大橋線の四国側起点は宇多津ですが,実際の線路は三角線になっていて坂出側にも宇多津側にも行けるようになっています。列車は左の坂出方面に行く列車が多く,右の宇多津駅に入る列車は,松山,高知方面の優等列車が多いです。このため坂出方面の列車に乗って,宇多津~坂出間を往復する場合のの区間外乗車を認めています。

 最後の(8)はJR九州の折尾駅に関するものです。折尾駅は鹿児島本線と筑豊本線が立体交差する駅ですが,黒崎方面から東水巻方面への短絡線が昔からありました。元々この短絡線には折尾駅のホームがありませんでしたが,1988年にホームが設けられました。この結果,折尾駅の構内で乗換えはできるようになったものの,場所が離れていて不便なため,折尾~黒崎間の区間外乗車の規定はそのまま残っています。

171078.jpg
西日本にある特定の分岐区間。上記(6)~(8)

2.分岐駅通過列車の区間外乗車(基151条)
 前の特定の分岐駅が基本的に全列車が対象なのに対し,この規定は分岐駅を通過する列車を利用する場合に限り認められる区間外乗車です。分かり易いのは中央線快速電車の代々木駅です。代々木を通って四ツ谷方面から渋谷方面に行くとき,あか色の中央線の快速電車で新宿乗換えのルートはふつうに利用するルートです。しかし厳密には,代々木~新宿間が往復乗車になっているので快速電車は使えず,黄色の緩行電車で代々木で乗換えなければいけません。これではあまりに不便なので,代々木を通過する快速電車に乗った場合に限り,区間外乗車してもよいですよ,という規定です。

171076_201712161850225d9.jpg
中央線の代々木駅。あか色の快速電車の線路にホームはありません 2017.10.28

160135.jpg
分岐駅通過列車の区間外乗車が規定されている区間

 また,東京方面から名古屋乗換えで中央西線方面に行くことを考えます。運賃計算上は東海道本線と中央本線は金山乗換えで計算しますが,新幹線から「しなの」に乗継ぐ場合は名古屋乗換えがふつうです。新幹線も「しなの」も金山は止まらないので,乗換えのためであれば金山~名古屋の区間外乗車を認めますという規定です。これは,名古屋乗換えで直通する旅客の便を考えての規定なので,名古屋で途中下車することはできません。もし途中下車する場合は,金山~名古屋間の精算と帰りに使う名古屋~金山の運賃が合算された復路専用乗車券を買うことになります。

171080.jpg
名古屋周辺の路線図と復路専用乗車券

 復路専用乗車券(復専)はこの分岐駅通過の区間外乗車が設定された駅でしか買えないので,乗車券蒐集趣味的には面白いものです。また,新宿駅で代々木~新宿の復専を売らないように,上の一覧の右側の駅ならどこでもある訳でもありません。以前に「分岐駅通過の区間外乗車と復路専用乗車券」という記事を書いたことがあるので,興味のあるかたはこちらを参照ください。

3.特定の列車による折り返し区間外乗車(基152条)
 2.は列車間の乗換えに伴うものですが,列車のなかには主要駅に立ち寄るため,一部の区間を折返し運転する列車があります。この場合の往復となる区間について,直通で乗車する場合は,運賃料金はいただきませんというルールです。なお,規定上は「直通運転する急行列車に乗車する旅客に対しては」とあるので,この区間を往復する普通列車では降りて待ってろ,ということになります。試みに白石,西小倉を見てみましたが,残念ながらそういう運転系統の普通列車は見当たりませんでした。
・札幌~白石(2016年3月改正でホワイトアロー(旭川~札幌~新千歳空港)系統が分断されてしまい定期列車なし)
・宮内~長岡(ほくほく線開業前の「はくたか」や夜行の「能登」のルートだが定期列車なし)
・幡生~下関(今のダイヤではそもそもこの区間に優等列車がない)
・西小倉~小倉(ソニックなど)
 手許の1991年の規定集を見ると,長距離を走る特急が多数走っていたので,五稜郭~函館(北斗星)など,10の区間が指定されていました。昭和56年の石勝線の開業直後ですが,函館~札幌~釧路間の「おおぞら」は千歳空港(現・南千歳)~札幌間44kmを約1時間かけて往復しており,なんとも悠長な時代でした。

171075.jpg
この頃の特急「おおぞら」。キハ183が新鋭だった 撮影場所不詳 1983.3

4.特定の列車によるう回乗車による区間外乗車(基110,154条)
 3.は特定の列車が特定の区間を往復する場合ですが,こちらは運転区間が大きくう回となる場合です。現在,JR東日本のホームページには次の2項目が規定されています。いずれもJRの事情で遠回り(う回)している列車なので,運賃・料金とも順路の運賃・料金で構いませんという規定です。特定の列車での直通が前提の規定なので,途中下車はできません。
・「成田エクスプレス」:列車は東京地下駅から品川を経由しますが,新宿および中央線方面の列車は両国,四ツ谷経由で,赤羽から東北本線方面の列車は実際には田端信号場を経由しますが,前述の中央線と赤羽線の十条経由でよい
・「はまかぜ」:播但線の特急列車ですが尼崎~和田山は福知山線経由でよい

171085.jpg
キハ181系時代の「はまかぜ」 @浜坂 2010.8.1

 またまた手許の1991年の規定集では,タイトルが「特定の列車による...」ですが,条文は区間単位に書いてあり,大宮~秋田(上越・羽越本線経由でも奥羽本線経由で計算),福島~青森(奥羽本線経由でも東北本線経由で計算)や小倉~(西)鹿児島(日豊本線経由でも鹿児島本線経由で計算)など豪快な区間外乗車が認められていました。

171084.jpg
「あけぼの」。この当時は上越,羽越本線,奥羽本線経由だったが東北本線経由の運賃・料金で乗れた @青森 2010.2.13

5.特定区間を再び経由する場合(基109条)
 これまで2回に分けて,いろいろな区間外乗車について説明しましたが,最後におまけです。シリーズ第4回で紹介した「最長片道切符」のような複雑なルートで,規69条(経路特定)や規70条(東京大循環)の区間を何度も通過する場合についての規定が基109条にあります。これらの規定は利用者の便宜を図っての規定であるので,敢えて短いほうのルートを使わず,実際の乗車経路どおりの経路でも運賃を計算することができる,としています。

6.区間外乗車のこれから
 さて,区間外乗車に関するルールのこれからですが,JR線の新たな開業や運転系統の設定で時と共に変わってゆくのでしょう。「旅客営業規則」本体に盛り込まれるルールはJR各社から開示されるのでよいのですが,「旅客営業取扱基準規程」に盛り込まれるルールは現在は条文を参照することができないので大変不便です。制度のこれからとは違いますが,基準規程のほうも参照できるようになるとよいと思います。(2017.10.22記)(2018.3.18今宮駅の写真追加)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1

知って楽しいJRの旅客営業制度5--区間外乗車のいろいろ・その1

171091.jpg

 旅客営業制度の解説5回目は区間外乗車のいろいろについて説明を試みます。このシリーズ第3回で説明したように,乗車券の経路は実際の乗車の経路どおりが原則ですが,利用者の便宜,JR側の発券の合理化のため,乗車券に表示の区間以外の区間に乗っても構いませんという制度が多数設定されています。ここではこれらをまとめて(広義の)区間外乗車と呼ぶことにします。

1.「旅客営業規則」と「旅客営業取扱基準規程」
 ところでJRの旅客営業制度の規定には2種類があります。一つは「旅客営業規則(以下,規)」で,これは旅客と事業者の結ぶ旅客運送契約の取扱いの詳細を定めた約款にあたるもので,JR各社のホームページでも公開されています。もう一つは「旅客営業取扱基準規程(以下,基)」で,JRの担当者を対象に旅客営業規則より細かい取扱いのルールや方法を定めたものです。以前は中央書院という出版社から,「旅客営業規則」と「旅客営業取扱基準規程」の関連する項目を見開きに並べた規定集が出版されてましたが,2011年に版元が倒産してしまいました。このため基準規程のほうは全文を見ることができず,JR東日本のホームページなどでも,基準規程の名は出さずに,利用者にも開示すべきポイントのみを公開しています。

171092.jpg
紙の規定集(平成3年 中央書院版)。辞書みたいに厚い本でした

 このため僕は,規定されている規則・基準規程の別,適用の条件などから,区間外乗車にも格付けがあると思っていて,このスレッドもこの順番に記してゆきます。前置きが長くなりましたが,今回はその1として「旅客営業規則」に規定のあるものをご紹介します。

2.(旅客営業規則69条の)特定区間
 最も格式が高いと思っているのは,旅客営業規則69条で規定された9つの区間で,大判時刻表でも昔から案内されていました。この9つの区間に対しては経路の指定を行わずどちらの経路でも選べ,「料金」計算も短い方の経路(下の表で○印)を使用でき,かつ途中下車もできます。

171093.jpg
旅客営業規則69条の特定区間(JTB時刻表 2017年3月号)

 以前は,東北本線と常磐線の日暮里~岩沼間も指定されていましたが,2001年の規定改訂で消滅しています。これはいくつも山を越えながら走る東北本線よりも,海沿いの平坦線をゆく常磐線の方が速かったり,常磐線がバイパスルートとしての役割を担っていた--実際,上野~青森間の寝台特急は東北本線経由の「はくつる」より常磐線経由の「ゆうづる」の方が多かった--ので,この2線は区別しない方が合理的と考えたのでした。時代は下り,東北本線には新幹線もできましたが,常磐線はまだ一部に単線区間が残るなど,バイパスとしての役割が薄れたため規定も廃止になりました。他の区間も多かれ少なかれ線区の歴史的経緯とバイパス線の位置づけに由来するものが多いです。

1710A4.jpg
特急「みちのく」,常磐線経由で上野~青森を結んでいた @仙台(?) 1986.1

 一番最後の,岩国~櫛ヶ浜は海岸線に沿って遠回りをする複線電化の山陽本線と山のなかを突っ切って走る単線非電化,地方交通線(距離を比較する場合は換算キロを用いる)の岩徳線です。山陽本線のほうが20km以上距離が長いですが,所要時間は短いです。列車の運転だけ見ればこの規定はなくてもよさそうですが,新幹線は岩徳線沿いのルートを通っているので,新幹線で通過する旅客に対してはこのルートで計算するほうが実態に合っています。という悩ましい規定ですが,途中下車も可ということで,沿線のかたは棚ぼたで得をしている感じです。

 また,下から2番目の呉線の規定は個人的には廃止しても差支えないと思いますが,どうもJR西日本はその辺には無頓着なようです。しいて言えば,ときどき呉線を通しで走る臨時列車があるから,あるいは既得権を主張する沿線利用者との調整を避けたいのが理由ではないでしょうか。

 表のうち,JR東日本の4区間は2004年に加えられた区間で,次に説明する70条の特定区間から編入されたものです。ゾーンまるごと指定していた70条から,個別の区間ごとの指定の69条に変えることで濫用を防いでいるわけです。

171086.jpg
呉線を全通する観光列車「瀬戸内マリンビュー」 @呉 2011.5.3

3.東京大循環(規70条)
 旅客営業規則で定められたものの2番目は東京大循環です。昔,山手線をきっぷの用語で東京電環と呼びましたが,山手線よりちょっと出っ張った区間があるので,東京大循環と通称されます。この範囲を通過するときは,最短経路で運賃計算し,う回経路の駅で途中下車することもできます。

171094.jpg
東京大循環(JTB時刻表 2017年3月号)

 例えば,新横浜から新幹線,品川経由,成田空港ゆきの乗車券で,渋谷や新宿を経由したり,それらの駅で途中下車することもできます。なお,新横浜~品川間をJR東海の新幹線経由とするからこの条文を利用することができますが,普通の乗車券では東京近郊区間相互発着なので経路は選べますが,途中下車はできません。

 いっとき,JRの制度担当がチョンボして,京葉線の蘇我までを東京大循環の中に入れてしまいました。他の区間は品川や赤羽でループがクローズするのでそう遠くへはいけませんが,蘇我の場合は東京側が開いているので,木更津~銚子(当時は東京近郊区間の外)の乗車券で新宿や池袋にきて途中下車することもできました。なお,現行の規定でも70条2で,蘇我以南の房総各線から東京大循環を通過する場合は,行き先を中央本線,東北本線(埼京線を含む),常磐線方面に限って最短経路で運賃計算することになっています(東海道本線方面(西大井経由を含む)や上の例のような総武線方面などはNG)。

171095.jpg
1991年当時の東京大循環(北海道旅客鉄道株式会社 旅客営業規則 旅客営業取扱基準規程/中央書院 1991年4月)

4.選択乗車(規157条)
 選択乗車は経路が2つあるときに,利用者は乗車券に書かれた経路にかかわらず,いずれか一方を選択できるものです。選択乗車で乗車券面の経路と異なるほうの経路の乗車中に途中下車できるかどうかは規定の項目ごとに決められていて,できない場合は「途中下車の取扱いをしない」と明記されています。選択乗車の指定区間は2017年7月現在,全国に57か所あり,全部を紹介するのは無理ですが,典型的なものだけいくつかご紹介します。

 典型的なケースその1は新幹線がらみのもので,新幹線駅が在来線駅と離れている場合です。いつかご説明しますが,新幹線は在来線と同一の扱いですが,規定ではちゃんとどちらでも選択できるように謳ってあるのです。下は20項で新横浜駅に関するものです。
171096.jpg

 ケース2も新幹線がらみのもので,孤立した新幹線駅の場合です。下の31項,32項は新幹線で新神戸に入って,神戸観光をした後,在来線の神戸駅から続きの旅行をするようなケースです。もちろん,新幹線と在来線の順序が逆でも,西進でも東進でも大丈夫なように規定はできています。また,説明はしませんが,上の新横浜のような選択も29,30項で規定されています。
171097.jpg

 ケース3は在来線でバイパスルートがあるケースで,たまたま2つ並んでいたのでまとめてご紹介します。上の33項は山陽本線と赤穂線ですが,赤穂線経由のほうが若干距離は短いものの地方交通線なので運賃的には高くなっています。下の34項はどちらも予讃本線ですが,1986年開業の内子線ルートのほうがショートカットルートで距離は短いですが,旧線経由も選択乗車ができます。この内子線ですが,線名としては廃止,予讃本線に編入してしまえばよさそうなものですが,地方交通線に指定されたがゆえに編入できないそうで,杓子定規な話です(Wikipedia:内子線の項)。

171099.jpg
171088.jpg
内子線ルートの特急「宇和海」 @松山(?) 2006.7.23

 ケース4も在来線のバイパスルートで22項の中央線塩嶺ルートに関わるものを紹介します。飯田線方面から中央線塩尻や篠ノ井線方面に行くには辰野で乗換えて善知鳥峠を越えて塩尻に出るのが近道ですが,この区間の列車は少ないです。飯田線からの大抵の列車は岡谷まで直通するので,塩嶺トンネル経由塩尻に出るほうが便利な場合が多々あり,県都直通快速「みすず」も後者のう回ルートを通ります。この場合も岡谷経由の選択乗車ができますが,う回乗車中に途中下車することはできません。なお,以前は岡谷~塩尻間が69条特定区間でしたが,2001年の改訂で削除されました。

171098.jpg
171087.jpg
善知鳥峠ルートのチョン行電車「ミニエコー」 @塩尻 2008.10.19

 ケース5もバイパスルート,線路付替えに関するものですが,沿線利用者の利便を考え,そのほうが便利なら逆回りも可能ですという規定です。距離では特急「かもめ」の通る現川経由のほうが近いですが,人口が多いのは旧来から線路の通っていた長与経由です。57項は浦上,長崎から東園,大草,本川内に行く場合に一旦,喜々津まで行って戻ってきてもよい,56項は西浦上から長与までの4駅に対しては諫早方面から一旦,浦上に出ての経路が選択できるというものです。
171089.jpg

 僕のよく使う根岸線でも以前は磯子~大船間の列車が少なかったので,磯子~桜木町間の各駅は藤沢,小田原方面から本郷台経由の乗車券で横浜経由が選択乗車できましが,根岸線の本数増に伴い2002年に廃止されました。また,同じ2002年の規定改訂で上のケース5にあげた56,57項が追加になりました。このシリーズの初回で紹介した「大都市近郊区間の大回り」も条文は157条2なので,条文の建付け上は選択乗車の一つとみることもできます。選択乗車は項目数も多いうえ,列車の運転の状況やJR各社のサービスの考えにより適宜見直されているため,全体をフォローするのは骨が折れます。(2017.7.23記) 

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算

知って楽しいJRの旅客営業制度4--運賃計算の基本と割引き,加算

170621.jpg

 旅客営業制度の解説の4回目は運賃計算の基本を説明します。それだけで1回分の文量になるほど,実は奥が深いのです。

1.運賃計算の基本--賃率と運賃の計算方法(旅客営業規則(以下,「規」)77条)
 JRの運賃は一般的には時刻表の営業案内のページ出ている営業キロ別運賃表として知られていますが,実際はもっと簡潔に決められているのです。細かい特則を除けば,営業キロ1kmあたりの運賃だけしか決めていなくて,これを賃率といいます。賃率は基本的には,300kmまで,600kmまで,601km以上の3つがそれぞれ16.2円,12.85円,7.05円と決まっているだけです(本州3社の幹線)。
 実際には運賃の刻み幅は11km~50kmまでは5km,以降100kmまでは10km,600kmまでは20km,601km以上は40kmとか,運賃計算の基準値は13km,55km,110km,620kmを用いる,運賃の本体部分は100kmまでは10円単位に切上げ,101km以上は100円単位に四捨五入など細々と計算方法が定められています。
 試みにこれらのルールを表計算ソフトに実装して表を作ると,ドンピタリ,時刻表の運賃表と同じ表が得られます。この賃率の境となる300kmと600kmですが,長い歴史で見ると時々変更されいますが,今の設定は1979年以来変わっていません。鉄道の強みが活かせる区間は高めに,航空との競争となる区間は安くという値になっています。なお,301km以上のときは,300×300kmまでの賃率と,300kmを超える部分にのみ301km~600kmの賃率をかけたものを足します。全体に安いほうの賃率をかけるのではありません。また,消費税は10円単位に四捨五入です。
 また,10km以下の区間は,84条という特別な条文により,距離の刻みと運賃が個別に設定されています。

170622.jpg
試みにExcelでつくった運賃表

 制度とは少し違う話ですが,本州3社の幹線の賃率は1987年の分割民営化を前に1986年9月に改訂されて以来変わっていません。以降の運賃改訂は3度ありましたが,いずれも消費税を転嫁するための改訂です。分割民営化を前に「今のうちに」とばかり上げてしまったのか,JRになってからの経営努力の賜物か分かりませんが,30年以上も実質的な値上げをしていないことは称賛すべきと思います。

2.長距離逓減制と一筆書きの薦め
 たくさん買えば安くなるボリュームディスカウントはよくあることですが,JRの運賃も賃率を距離帯ごとに設定することにより長距離を乗ればお得なようになっています。とくに,601km以上の賃率は300kmまでの半分以下なので,きっぷは距離が延びるように買うことが運賃を安くする基本で,これを長距離逓減制といいます。

170623.jpg
実効賃率の距離別推移(消費税込みの運賃を距離で割ったもの,現行幹線運賃)

 このメリットを享受するには,一筆書きの要領で経路を選ぶのがポイントです。この究極が宮脇俊三氏の「最長片道切符の旅」の乗車券です。当時に比べるとJRの路線図は寂しくなってしまいましたが,今の旅客営業区間ではどんな経路になるのでしょうか。

170629.jpg
最長片道切符の経路(最長片道切符の旅 宮脇俊三著 新潮文庫1983年から)

170631.jpg
ずいぶん昔ですがゴールデンウィークに一筆書き旅行した時のきっぷ

 もう少し実用的なところで,東京から北陸の福井に行くことを考えます。福井は以前なら東海道新幹線米原経由が順路でしたが,今は北陸新幹線ができたので長野・金沢経由でも遜色ありません。このとき,往きを米原経由,帰りを金沢経由の1枚の乗車券にすることで随分割安になります。往きと帰りで異なる車窓も楽しめ,きっぷも「東京都区内から東京都区内ゆき」と楽しい乗車券になります。もちろん,往きと帰りの経路が逆でも問題ありません。

170628.jpg
東京~福井間の往復と一筆書きの比較

 東京から北陸方面のような純粋な一周ルートのほか,第3回で説明した「の」の字ルートを使えばより長い乗車券にすることができます。下の乗車券の距離は2600km弱あり,値段を距離で割った実効賃率は10円以下になっています。

170630.jpg
「の」の字ルートの乗車券の例

3.線区別,会社別の賃率(規77条の2~85条)
 昭和末期の国鉄の赤字ローカル線問題から線区の収支を運賃に反映すること,分割民営化により会社ごとに収益基盤が異なることにより,かつては全国一律だった賃率は今は多数の区分により設定されています。下が会社,路線の種別ごとの賃率を一覧にしたものです。また,乗車券の経路が一つの区分の中に納まっていれば簡単ですが,複数の会社や区分にまたがった場合,換算キロや擬制キロといった手法で換算するため,運賃計算は複雑このうえありません。ここでは多くの種類の賃率が設定されていることと,またがるときは換算が必要なことを述べるにとどめ,詳細は時刻表などの案内を熟読ください。
 ところで,電車特定区間の賃率はJR東日本とJR西日本で同じなのに,時刻表の運賃テーブルは微妙に違う2列が載っています。JR東日本はSuicaの普及促進のために消費税の端数を切上げるのに対し,JR西日本は原則どおり四捨五入しているのが原因のようです。なお,7~10㎞の運賃帯だけJR東日本<JR西日本なのは84条で特定しているからです。
(2019.1.26 この段落修正)

170624.jpg
会社,種別ごとの賃率の一覧

4.往復割引(規94条)
 長距離逓減制のほか,JRをたくさん乗ると安くなる制度の典型が往復割引です。連載2でも少し触れましたが片道601km以上で往復割引が適用になり,往き帰り共に1割引になります。以前は往復割引は帰りのみ2割引でしたが,国鉄分割民営化の時から往復それぞれ1割引になったのです。(新)下関~博多は在来線はJR九州ですが,新幹線はJR西日本で,この区間の運賃が微妙に異なるからです。

 ところで往復割引は601km以上からですが,実態としては往復するなら541km以上の運賃帯でも,往復割引が適用になる601km以上の乗車券を買った方が安くなります。以前は561km以上が対象で大阪はぎりぎりあてはまらなかったと記憶しますが,幾度かの運賃改定を経て今は大阪でも若干ですが安くなるようになりました。

170607.jpg

5.私鉄競合区間の割引き(規79条,具体的な区間と運賃は「旅客営業取扱基準規程」113条の2)
 民営化直前の幾年かに急激に国鉄~JRの運賃は高くなったため,割安な電車特定区間の運賃をもってしても,私鉄より運賃の高い区間が多数できてしまいました。これを緩和するため,東京,名古屋,大阪の特定の区間では計算どおりの運賃より割安な運賃が設定されている区間があります。これらは,まともに私鉄と競合する区間がほとんどで,ちょっとずれると正規運賃になってしまい,実際に使える場面は限られます。

170625.jpg
私鉄との競合区間の特定運賃(一部だけを抜粋)

6.その他の割引運賃~学生割引(規28,29,92条)
 JRの指定した中学校~大学(大学院も含む)の生徒・学生がJR線を100km超を使うとき,学校の代表者から証明書を交付してもらうことで2割引きになります。その他にも障がい者や社員の割引きなどもルールとしては存在すると思うのですが,JRの旅客営業規則では,学生と救護者だけは規則の本文に定められています。

7.特定区間に対する加算運賃(規85条の2)
 瀬戸大橋線など建設に大きな費用を要した区間では設備のレンタル料が高額だったり,設備の償却費用も大きかったりします。このため該当の区間を通るお客さんだけにその負担を転嫁する目的で,特定区間に対する加算運賃があります。現在,JRでは4か所,新千歳空港,関西空港線,本四備讃線,宮崎空港線が設定されています。
 また,私鉄でも京急の羽田空港や京王相模原線などには同様の加算運賃の設定があります。

170626.jpg
加算運賃の適用区間に乗入れる快速エアポート @長都 2015.2.21

8.運賃帯の刻みによる不利な区間
 この節と次の節は1.に書いた運賃計算の仕組みが構造的に持つ不合理な点ですが,これを解消するには運賃計算の仕組みの根本を見直す必要があります。このため不合理ではあっても,全体の整合からやむを得ないものと思っています。乗車券は601kmを超えると刻みが大きくなり,距離で40km,運賃も1運賃帯上がるごとに210円から330円ずつ上がります。例えば,東京から644.3kmの姫路に行く場合,普通に乗車券を買うと641~680kmの9,830円です。しかし,姫路の2つ手前の御着は東京からちょうど640kmなので1つ安い9,610円で済み,御着~姫路間4.3kmを乗り越し清算しても190円なので計9,800円で30円安くなります。このケースの場合は運賃の上り幅が220円でしたが,330円の場合は百数十円の違いが出る場合もあるので,運賃帯の刻みを少しだけオーバーしてしまったときは,ちょっとの確認で節約が可能です。

9.分割定期券の不思議
 自分が勤める会社では,通勤交通費補助として通勤定期券代が支給される規定になっていますが,定期券を分割購入した場合に6か月定期で3,000円以上安くなる場合は,定期券の分割の仕方を指示され,その金額しか支給されません。なんと世知辛いと思いますが,最近は乗換え検索ソフトでも分割定期券を提示できる時代なので,どこの会社でもやっているのかもしれません。なんでこんなヘンなことが起こるのでしょうか。運賃の仕組みの話をしたついでに,この不思議についても説明してみます。
 先ずは定期券ではなく,普通乗車券で考えます。例えば,東京から横浜を例に見てみましょう。東京~横浜の営業キロは28.8km,この区間の運賃は26~30kmの電車特定区間の470円です。ここで注目は,この距離帯の基準営業キロの28kmです。代わって,東京~蒲田と蒲田~横浜はいずれも営業キロが14.4km,11~15kmの電車特定区間の運賃は220円ですが,この距離帯の基準営業キロは13kmです。従って,蒲田で切ることにより,13km×2の26kmで運賃計算していることになり,通算の28kmより安くて当然という結果になるのです。この東京~横浜間を品川で切ると,東京~品川は賃率の安い山手線運賃,品川~横浜は私鉄競合特定割引き区間に設定されていますが,それでも15km切り×2には及びません。なお,この11~15kmの運賃帯はいろいろな端数整理が有利に働いて,実効賃率が14.7円/kmの不思議なお買い得区間になっています。

170627.jpg
東京~横浜間の運賃

 さて,この理屈を6か月通勤定期に当てはめると,蒲田で切ると31,020円×2の62,040円,通しで買うと66,700円となり,4,660円も差がついてしまうのです。このため,自分の勤め先に限らず,企業が節約を考えるのも無理はありません。

10.これからの運賃計算
 自分は趣味でJRの旅客営業規則の研究をしているだけなので,多くを言える立場にありませんが,2点のみ書いておきます。今のJRの運賃は路線別運賃と分割民営化によりやたらと複雑になっています。とくに,会社によって換算キロと擬制キロとか同じことを別の言い方をしたり,似て非なるルールだったり,消費税の端数処理が不統一だったりの点は,会社間の調整をして整理が必要と思います。また,旅客営業規則の定める運賃計算の基本は消費税施行前,電卓などの事務機器も未発達の時代からのものですが,101km以上の運賃を100円単位に丸める規則は10円や1円に変えるべきです。運賃本体と消費税の2回の端数整理により実効賃率が波うってしまっているのを,きれいな直線することができ,距離帯(運賃帯)による有利不利が解消されます。(2017.6.25記)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類

«  | ホーム |  »

カテゴリ

総合目次 (1)
旅行 (1)
|-鉄道旅行一般 (25)
|-青春18きっぷ (29)
|-140円旅行 (16)
|-家族旅行 (18)
のりものイベント (11)
鉄道のイロハ (4)
知って楽しいJRの旅客営業制度 (13)
運賃料金制度 (15)
鉄道写真 (18)
鉄道/運転 (9)
車両形式別記事など (2)
20世紀の鉄道写真 (19)
バス (6)
エアライン (2)
船舶海洋 (3)
HOゲージ (4)
Nゲージ (7)
Bトレ目次 (1)
Bトレインショーティー (31)
Bトレインショーティーの組立て方 (4)
その他のりもの (17)
Weblog (4)
東海道徒歩き(かちあるき) (14)
サイトポリシー (1)
English article (1)
未分類 (0)
1990年代の欧州鉄道旅行 (0)

最新記事

月別アーカイブ

FC2カウンター

最新コメント

最新トラックバック

リンク

主宰者からのお願い:
鉄道.comのランキングに参加しています。よろしかったら,下のバナーのクリックをお願いいたします。

tetsudoucom.jpg

QRコード

QR