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2021-05

知って楽しいJRの旅客営業制度6--区間外乗車のいろいろ・その2

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 旅客営業制度の解説6回目は比較的マイナーな区間外乗車のいろいろについて説明を試みます。乗車券の経路は実際の乗車の経路どおりが原則ですが,利用者の便宜とJRの発券の合理化のため,乗車券に表示の区間以外の区間に乗っても構いませんという制度が多数設定されています。これらをまとめて(広義の)区間外乗車と呼ぶことにしましたが,今回は「旅客営業規則(以下,規)」本体ではなく,一つ格下の「旅客営業取扱基準規程(以下,基)」に規定されたものをとりあげます(規則と基準規程の違いについては前回を参照)。

1.特定の分岐区間の区間外乗車(基149条)
 JRの線路の配線の都合上,どうしても直接行けない区間および類似の区間に対して設定されています。最も典型的な例として武蔵白石を例に説明します。鶴見線の大川支線は武蔵白石~大川ですが,武蔵白石駅の大川支線用のホームは急曲線上に設けられていました。1996年にこの区間の電車を20m級の電車に置換た際,この急曲線が通れなくなってしまったので,大川支線の列車は武蔵白石を通過としたのです。このため浜川崎側から大川に行く場合は,武蔵白石~安善間を往復しないと行けなくなってしまったので,区間外乗車を認めるようにしたのです。

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武蔵白石周辺の線路と昔の大川支線の電車

 このような区間は数も限られているので,他の8つの区間も全部をおさらいしておきましょう。この規定は線路の配線が前提なので,対象区間を通る列車全てが対象となります。また,区間外乗車となっている区間では途中下車はできません。最初の(1)は比較的新しい規定で,仙石東北ラインに関するものです。東北本線と仙石線の間に短絡線を設けた際に東北本線側は松島駅のすぐ手前だったので起点を松島駅としましたが,ホームがないので運転上は塩釜駅で別れる形態にして,石巻方面から小牛田方面に行く場合の松島~塩釜間の区間外乗車を認めるものです。

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仙石東北ラインの渡り線部と専用のハイブリッドディーゼルカー @松島駅南方/石巻 2015.7.31

 次の2つは東北本線に日暮里駅のホームがないことに由来するものです。(2)は常磐線と東北本線相互間の乗換えに関するものです。実態として三河島方面と西日暮里,田端方面なら京浜東北線電車を使えば経路どおりに行けます。しかし,日暮里~赤羽間が69条の経路特定区間に指定されていること,新幹線があることから,随分大掛かりに範囲が設定されています。また,(3)は尾久駅だけを対象とした規定で,(2)とは別建てで規定されています。

 (4)は湘南新宿ラインに関する規定です。横浜方面から湘南新宿ラインの電車に乗ると,西大井の先で減速し,蛇窪という信号場で進行方向とは逆の右に曲がって,横須賀線の下をくぐってから大崎に出ます。気持ちとしては,西大井から大崎に直通しているのですが,運賃計算上は蛇窪信号場が品川駅構内の扱いのため(?),一旦品川に出て山手線で大崎に出る計算をします。このため西大井から田町に行くとき,たまたま来た電車が湘南新宿ラインの電車だったので大崎から山手線を使ったようなケースの救済のために,品川~大崎間の区間外乗車を認めています。もし,大崎~西大井間に独立した営業キロが設定されると,東京近郊区間の大回りルートにも影響しそうで夢は広がるのですが。

 (5)も横須賀線関係の規定で,横須賀線が鶴見駅を通過することに由来するものです。横須賀線はもともと品鶴(ひんかく)貨物線と呼ばれていた線路を旅客用に転用したもので,鶴見より南は東海道本線の扱いです。ところが,新川崎方面から来た電車ではいや応なしに横浜まで降りられないので,新子安,東神奈川,それに東神奈川からの横浜線方面に行く場合の区間外乗車を認めるものです。なお,冒頭に書いた武蔵白石はJR東日本のウェブサイトでは(5)と(6)の間に載っています。

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JR東日本管内にある特定の分岐区間。上記(1)~(5)の区間

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鶴見駅に横須賀線ホームはない @鶴見 2017.1.28

 (6)は関西の大阪環状線と関西本線の今宮駅に関するものです。冒頭の鶴見線のように全列車が通過する訳ではありませんが,大阪環状線の今宮駅が新しく(1997年)に設けられたホームで,乗換えが不便なのを嫌って新今宮まで往復する人の便を図っての規定です。

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今宮駅のホームは立体交差上にあって,変則的なホーム配置 @今宮 2018.3.15

 (7)は瀬戸大橋線に関するものです。瀬戸大橋線の四国側起点は宇多津ですが,実際の線路は三角線になっていて坂出側にも宇多津側にも行けるようになっています。列車は左の坂出方面に行く列車が多く,右の宇多津駅に入る列車は,松山,高知方面の優等列車が多いです。このため坂出方面の列車に乗って,宇多津~坂出間を往復する場合のの区間外乗車を認めています。

 最後の(8)はJR九州の折尾駅に関するものです。折尾駅は鹿児島本線と筑豊本線が立体交差する駅ですが,黒崎方面から東水巻方面への短絡線が昔からありました。元々この短絡線には折尾駅のホームがありませんでしたが,1988年にホームが設けられました。この結果,折尾駅の構内で乗換えはできるようになったものの,場所が離れていて不便なため,折尾~黒崎間の区間外乗車の規定はそのまま残っています。

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西日本にある特定の分岐区間。上記(6)~(8)

2.分岐駅通過列車の区間外乗車(基151条)
 前の特定の分岐駅が基本的に全列車が対象なのに対し,この規定は分岐駅を通過する列車を利用する場合に限り認められる区間外乗車です。分かり易いのは中央線快速電車の代々木駅です。代々木を通って四ツ谷方面から渋谷方面に行くとき,あか色の中央線の快速電車で新宿乗換えのルートはふつうに利用するルートです。しかし厳密には,代々木~新宿間が往復乗車になっているので快速電車は使えず,黄色の緩行電車で代々木で乗換えなければいけません。これではあまりに不便なので,代々木を通過する快速電車に乗った場合に限り,区間外乗車してもよいですよ,という規定です。

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中央線の代々木駅。あか色の快速電車の線路にホームはありません 2017.10.28

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分岐駅通過列車の区間外乗車が規定されている区間

 また,東京方面から名古屋乗換えで中央西線方面に行くことを考えます。運賃計算上は東海道本線と中央本線は金山乗換えで計算しますが,新幹線から「しなの」に乗継ぐ場合は名古屋乗換えがふつうです。新幹線も「しなの」も金山は止まらないので,乗換えのためであれば金山~名古屋の区間外乗車を認めますという規定です。これは,名古屋乗換えで直通する旅客の便を考えての規定なので,名古屋で途中下車することはできません。もし途中下車する場合は,金山~名古屋間の精算と帰りに使う名古屋~金山の運賃が合算された復路専用乗車券を買うことになります。

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名古屋周辺の路線図と復路専用乗車券

 復路専用乗車券(復専)はこの分岐駅通過の区間外乗車が設定された駅でしか買えないので,乗車券蒐集趣味的には面白いものです。また,新宿駅で代々木~新宿の復専を売らないように,上の一覧の右側の駅ならどこでもある訳でもありません。以前に「分岐駅通過の区間外乗車と復路専用乗車券」という記事を書いたことがあるので,興味のあるかたはこちらを参照ください。

3.特定の列車による折り返し区間外乗車(基152条)
 2.は列車間の乗換えに伴うものですが,列車のなかには主要駅に立ち寄るため,一部の区間を折返し運転する列車があります。この場合の往復となる区間について,直通で乗車する場合は,運賃料金はいただきませんというルールです。なお,規定上は「直通運転する急行列車に乗車する旅客に対しては」とあるので,この区間を往復する普通列車では降りて待ってろ,ということになります。試みに白石,西小倉を見てみましたが,残念ながらそういう運転系統の普通列車は見当たりませんでした。
・札幌~白石(2016年3月改正でホワイトアロー(旭川~札幌~新千歳空港)系統が分断されてしまい定期列車なし)
・宮内~長岡(ほくほく線開業前の「はくたか」や夜行の「能登」のルートだが定期列車なし)
・幡生~下関(今のダイヤではそもそもこの区間に優等列車がない)
・西小倉~小倉(ソニックなど)
 手許の1991年の規定集を見ると,長距離を走る特急が多数走っていたので,五稜郭~函館(北斗星)など,10の区間が指定されていました。昭和56年の石勝線の開業直後ですが,函館~札幌~釧路間の「おおぞら」は千歳空港(現・南千歳)~札幌間44kmを約1時間かけて往復しており,なんとも悠長な時代でした。

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この頃の特急「おおぞら」。キハ183が新鋭だった 撮影場所不詳 1983.3

4.特定の列車によるう回乗車による区間外乗車(基110,154条)
 3.は特定の列車が特定の区間を往復する場合ですが,こちらは運転区間が大きくう回となる場合です。現在,JR東日本のホームページには次の2項目が規定されています。いずれもJRの事情で遠回り(う回)している列車なので,運賃・料金とも順路の運賃・料金で構いませんという規定です。特定の列車での直通が前提の規定なので,途中下車はできません。
・「成田エクスプレス」:列車は東京地下駅から品川を経由しますが,新宿および中央線方面の列車は両国,四ツ谷経由で,赤羽から東北本線方面の列車は実際には田端信号場を経由しますが,前述の中央線と赤羽線の十条経由でよい
・「はまかぜ」:播但線の特急列車ですが尼崎~和田山は福知山線経由でよい

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キハ181系時代の「はまかぜ」 @浜坂 2010.8.1

 またまた手許の1991年の規定集では,タイトルが「特定の列車による...」ですが,条文は区間単位に書いてあり,大宮~秋田(上越・羽越本線経由でも奥羽本線経由で計算),福島~青森(奥羽本線経由でも東北本線経由で計算)や小倉~(西)鹿児島(日豊本線経由でも鹿児島本線経由で計算)など豪快な区間外乗車が認められていました。

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「あけぼの」。この当時は上越,羽越本線,奥羽本線経由だったが東北本線経由の運賃・料金で乗れた @青森 2010.2.13

5.特定区間を再び経由する場合(基109条)
 これまで2回に分けて,いろいろな区間外乗車について説明しましたが,最後におまけです。シリーズ第4回で紹介した「最長片道切符」のような複雑なルートで,規69条(経路特定)や規70条(東京大循環)の区間を何度も通過する場合についての規定が基109条にあります。これらの規定は利用者の便宜を図っての規定であるので,敢えて短いほうのルートを使わず,実際の乗車経路どおりの経路でも運賃を計算することができる,としています。

6.区間外乗車のこれから
 さて,区間外乗車に関するルールのこれからですが,JR線の新たな開業や運転系統の設定で時と共に変わってゆくのでしょう。「旅客営業規則」本体に盛り込まれるルールはJR各社から開示されるのでよいのですが,「旅客営業取扱基準規程」に盛り込まれるルールは現在は条文を参照することができないので大変不便です。制度のこれからとは違いますが,基準規程のほうも参照できるようになるとよいと思います。(2017.10.22記)(2018.3.18今宮駅の写真追加)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
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