知って楽しいJRの旅客営業制度8--新幹線と周辺の乗車券の規則

新幹線は日本の誇る鉄道技術の賜物ですが,新幹線に関連していくつかの乗車券のルールがあります。JRの旅客営業制度の考察8回目はこれらについて見てみます。
1.幹在同一原則(旅客営業規則(以下,規)16条の2)
いきなり難しいタイトルから始まりますが,これは旅客営業制度上は新幹線と在来線を同じものとして取扱いますよ,ということです。新幹線の線路は速度向上のためにカーブは原則として半径2,500m(東海道新幹線)とか半径4,000m(それ以外)以上とし,まっすぐに山をトンネルで貫き,谷を長大橋で跨ぎ敷かれています。これに対し,在来線は多かれ少なかれ,急勾配を避け,街を縫い(とても昔は蒸気機関車の煙を忌避され街外れを迂回し?)敷かれていました。このため一般に新幹線の線路は都市間で見ると短くなっています。例えば,東海道新幹線では東京~新大阪間は在来線の552.6㎞に対し新幹線では515.4㎞(率にすると6.7%短い)です。しかし,東海道新幹線ができたとき,旅客営業制度上はこれらを区別せず同じものとして扱うことに決めたのです。

随分古い写真ですが...100系試作車登場の頃 @東京第2運転所 1980.4頃
例えば,東京~品川間は東海道本線のほかに京浜東北線,山手線,横須賀線の電車もそれぞれ複線の線路を持ちますが,建前上は全て東海道本線です。場所によってはちょっと違った場所を通っても,これと似たような考えで同じとみなすわけです。

いろいろな電車が並ぶが全て東海道本線 @浜松町 2018.1.17
上に書いたように,新幹線のルートは短いので,新幹線経由の旅客は余計な運賃を支払わされている勘定になります。しかしながら,お客さまにどちらのルートで行くかを訊ねながらきっぷを売るのは駅の発券業務に馴染みません。新幹線を予定していたけど遅くなったので在来線の「銀河」で,とか,節約のため在来線でという変更の可能性もあります。また,別の経路とした場合,往復割引はどうするのかといった問題もあります。総じていえば,幹在同一原則は理にかなったものと思います。

北海道新幹線も整備新幹線の一つ @新函館北斗 2016.3.29
2.幹在同一原則の範囲と整備新幹線(規16条の2,規16条の4)
幹在同一といっても,最近開業した新幹線では並行在来線は第三セクター化されてしまって,在来線はJRの営業線区でありません。そのため,主に国鉄時代に開業した新幹線が幹在同一原則の範囲で,通称で整備新幹線と呼ばれるJRになってから開業した新幹線では,規16条の4で「それぞれ単一の線路として旅客の取扱いをする」と定められています。九州新幹線には例外の区間もあり,まとめると下の表と図のようになります。


3.幹在同一原則の例外(1)--在来線駅と離れた新幹線駅を含む区間(規16条の2の2項)
幹在同一といっても新横浜や新神戸のように物理的に離れた所に新幹線の駅がある場合は,別の線路として扱わなければいけないこともあります。このため,規16条の2の2項ではこれらの駅を発駅若しくは着駅又は接続駅とする場合は、線路が異なるものとして旅客の取扱いをすることとしています。規定ではこれらは区間で表されて(1)品川・小田原間(筆者注:新横浜を指す,以降も同じ),(2)三島・静岡間(新富士を指す)と区間で示して,(16)筑後船小屋・熊本間(新大牟田,新玉名を指す)まで16の区間が定められています。

第5回「区間外乗車のいろいろ」のうち4.選択乗車(規157条)から
これらの区間には第5回で紹介した選択乗車が設定されていて,実態としてはきっぷの表示に拘わらず,新幹線でも在来線でも選択して乗れることになっています。そればかりか,新幹線で来て新神戸で途中下車後,在来線の神戸から続きを乗車するケースも認められるようになっています。詳細は第5回の4.選択乗車を参照ください。なお,このようなときの新幹線駅~在来線駅間の移動に関しては何も言及されておらず,素直に解釈すればその分の費用は旅客の負担と考えられます。
4.幹在同一原則の例外(2)--新下関~博多間(規16条の3)
これも第4回の4.往復割引の項で少し触れましたが,新下関~博多間は新幹線はJR西日本の営業する山陽新幹線ですが,在来線はJR西日本の山陽本線とJR九州の鹿児島本線です。この2社の間では賃率が異なるため,運賃も異なります。このため,新幹線と在来線を別の線路として運賃計算をしますが,往復割引の適用や運賃計算をするときの営業キロの考え方--環状1周になったら計算打切り--などは,同一のものとして扱うという規定です。

新下関~博多間を含む往復乗車券(往路は新幹線経由,復路は在来線経由)
試みに博多~小倉の往復乗車券(上段)を都内のある駅で買ったところ,連続乗車券でないと発券できないとの由でした。興味が興味を呼びそれならば往復割引適用ならどうなるかと博多~大阪(下段)も買ってみました。普通の往復乗車券にはない注記がたくさんあって興味深いです。220円でこれだけ楽しめれば安いものですが,応対してくださった駅のご担当には申し訳ないことをしました...
5.幹在同一原則の例外の例外--東広島~広島~呉線へ乗継ぐケース(旅客営業取扱基準規程(以下,基)151条ノ2)
これも既に1度触れたものですが,第6回の2.分岐駅通過列車の区間外乗車(基151条)の特例です。元々,広島駅と呉線の分岐する海田市駅の間には分岐駅通過列車の区間外乗車の特例が設定され,幹在同一原則により,広島へ新幹線で来ても適用されました。しかし,1988年に在来線と接続しない東広島駅ができ別線扱いになってしまったため,東広島~新幹線~広島~海田市~呉方面の経路が構成できるようになりました。ルールどおり計算すると東広島駅ができたばかりに値段が上がってしまいます。基151条ノ2は,例外的に新幹線の東広島~広島間を在来線と同じとみなして,新幹線で来ても海田市における分岐駅通過列車の区間外乗車の特例の取扱いを有効にしているのです。

当ブログ「分岐駅通過の区間外乗車と復路専用乗車券(2016.1.30)」から
分岐駅通過列車の区間外乗車特例が設定され,かつ関連の新幹線の駅が在来線と別の場合にこういうケースが発生しますが,敢えて例外の例外の規定を設けているのはここだけです。呉線への乗継ぎ需要が大きく,東広島が後発の新設駅ゆえの特別な規定なのでしょう。
6.ミニ新幹線(新在直通運転)
山形新幹線と秋田新幹線は一般に新幹線と案内されますが,法律上も旅客営業制度上も新幹線ではありません。在来線でありながら軌間(線路の幅)を新幹線と同じ標準軌として,新幹線車両が直通できるだけです。対東京の輸送に関しては便利になった反面,域内の輸送では乗換えが増えたり,貨物列車が運転できなくなったりの弊害もあります。フル規格の新幹線は当分実現しそうにないので,ミニでも早くに新幹線を実現させたこの2線の後はあまりミニ新幹線の話は聞きません。

新庄駅。新幹線と在来線の乗換えが便利なように工夫されている 2017.5.4
7.その他の新幹線車両が走る区間
下の2つの区間も新幹線電車で運転されますが,営業制度上は在来線です。走る列車は全て特急扱い,かつ石勝線のような救済措置もないので青春18きっぷでは乗れません。また,電車は全て新幹線電車なので,運転士さんの免許は「新幹線電車」の動力車操縦者運転免許が必要だそうです。重箱の隅をつつくような話ですが,いろいろな例外があって面白いです。
博多南線 博多~博多南 (JR西日本)
上越線 越後湯沢~ガーラ湯沢 (JR東日本)(季節営業)

博多南線開業直後の福岡・唐津ミニ周遊券
改訂が間に合わず,見逃してしまいそうですが小さく手書きしてあります。

ガーラ湯沢駅開業初日のきっぷ
他の件できっぷ箱を見ていたらたまたま出てきたもの。忘れていましたが,初日に行っていたんですね
8.新幹線経由の乗車券の表示
1987年の分割民営化により,上の4.のように新幹線と在来線の事業者が異なる区間ができました。これらの区間は,幹在同一原則がありながら,JR会社間での運賃収入配分のために新幹線と在来線を区別する必要があります。このため乗車券の経由欄には「新幹線」の表示がされるようになりました。旅客にとっては選択乗車のルールがあるのでどちらでもよいのですが,JRにとっては正しい運賃収受という点で制度的に必要なのでしょう。
東京~熱海 JR東海(新幹線)・JR東日本(在来線)
米原~新大阪 JR東海(新幹線)・JR西日本(在来線)
新下関~博多 JR西日本(新幹線)・JR九州(在来線・下関以西)
JR発足時には旅客営業規則にも条文を作って,これらの区間の在来線経由の乗車券を持った乗客が新幹線に乗車する場合は,新幹線改札で「新幹線振替票」を交付し,新幹線下車駅でそれを回収するルールとしました。実態としてはそのようなルールは運用できなかったらしく,1年で廃止されてしまいました。それに代わり,マルスで発券する乗車券でこれらの区間を通過する場合は幹在の別を表示し,在来線経由の乗車券で新幹線に乗った場合は車掌がきっぷの表示を修正する取扱いとしました。これがきっぷに表示される四角マークです。四角マークは4つ(特急券一体型では3つ)で組になっていて,それぞれが左から,東京~熱海,米原~新大阪,新下関~博多を表し,黒く塗りつぶされていれば新幹線経由,枠だけなら在来線経由です。なお,4つまたは3つの組はall or nothingで,1つとか2つで駅単位の区間を示すようなことはしていません。

上は顧客操作型のMV端末なので希望を込めて在来線としたのではないかと思われます。
下はどちらも呉駅発行ですが,どちらも社用なので在来線で行くはずはなく,どうして在来線なのかナゾです。まさかJR西日本としてはそのほうが得だからということはないと思います。
発券時点でもかなりいい加減だし,車掌が表示を塗りつぶしている姿も見たことがありません。また,在→幹は塗りつぶせば済みますが,幹→在はどうするのでしょうか。この仕組みも計画倒れで,正しく運用されているとは程遠い状況です。しかしながら,新幹線・在来線間の変更がそう頻繁にある訳でもなく,幹→在と在→幹で頻度が大きく違うとも思えず,ある面「お互いさま」なのではないでしょうか。また,こういうルールを設けることで,恣意的に一方に有利な発券はさせない抑止力にはなっていると思います。
9.新幹線と大都市近郊区間
大都市近郊区間は第1回でも説明したように,区間内でクローズする乗車券に対してはいろいろな特例があり,まとめると下の表のようになります。新幹線が大都市近郊区間に含まれるか否かで,これらの取扱いが変わってきます。

大都市近郊区間とふつうの乗車券の取扱いの違い
例えば高崎~大船間を全て在来線で行けば東京近郊区間相互発着になりますが,高崎~大宮間を新幹線経由とすることで東京近郊区間でクローズしない,すなわち乗車券の本則どおりの有効期間2日,途中下車も可になります。その代わり,磯子に帰るために運賃計算は遠回りの根岸線を選択,東海道線戸塚経由は使えません。

経路の一部を新幹線経由とすることで乗車券の本則どおり有効期間2日,途中下車可
JR発足時に東海道新幹線がJR東海の営業になったので,東京近郊区間からはずれましたが,2004年3月の制度改訂からは,米原~新大阪と西明石~相生だけが大阪近郊区間に残り,他の新幹線区間は全て大都市近郊区間外となりました。幹在同一原則と選択乗車の制度があるので,新幹線経由とするか否かで乗車券の効力としては変わりはありません。大都市近郊区間とするか否かのどちらがメリットがあるかで買い分ければよいと思います。
10.これからの新幹線に関する制度
毎回,採りあげた制度の今後について書いていますが,新幹線と周辺の制度に関しては,ここをこうすべきという点がありません。ただ,8.や9.の点など多くの矛盾があるので,きれいに整理できるとよいとは思います。本文中では採りあげませんでしたが,次のケースも一つの矛盾だと思います。新幹線で行って,手前の駅に戻ることはよくあることです。静岡の一つ手前の東静岡の場合,新富士(在来線と離れた駅)~静岡~東静岡という経路が成り立ちますが,掛川の一つ手前の菊川の場合,静岡(在来線と同じ駅)~掛川~菊川という経路は復乗になってしまい1枚の乗車券にはなりません。JRの制度ご担当もこれらの矛盾点は分かっているでしょうから,今後の整理に期待です。(2018.10.13記,2019.7.7きっぷの画像追加)
知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
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