知って楽しいJRの旅客営業制度10--新幹線特急券に関する規則

JRの旅客営業制度の考察,10回目は新幹線の特急券に関する制度について説明します。頻繁に鉄道旅行をしていた学生時代,特急料金が高い,直ぐ着いてしまう,窓が開かず風情がないなどの理由で新幹線を嫌っていました。その頃の体験から今でも新幹線は好きではないのですが,避けては通れない項目なので勇気を振り絞って解説を試みます。

田端付近の高架を行く「つばさ」+「やまびこ」 @田端 2018.11.25
1.新幹線の特急料金
先ず新幹線の特急料金は在来線の特急料金のような距離帯ごとの設定ではなく,駅から駅への区間ごとに定められ,三角表で示されます。そうは言っても全てを区間ごとに定めている訳ではなく,概ね距離帯ごとの設定になっています。試みに三角表で示される特急料金を読取って,距離別にプロットしたものが下のグラフです。これをじっくり眺めると,面白いことがいろいろ分かりました。

各新幹線の特急料金を距離×ねだんでプロットしたもの(拡大はこちら)
東海道:東京,山陽:新大阪,九州:博多,東北:上野,上越:大宮,北陸:高崎,北海道:新青森を起点とした各駅
・グラフの読み方として,各点を結ぶ近似の線を考えたときに横に寝てくれば割安,縦に立上がれば割高です。
・割安なのは国鉄時代からの東海道・山陽と東北・上越ですが,微妙に傾きが違い,東海道・山陽のほうが若干割安です。
・国鉄時代からの経緯からか,東海道と山陽は会社が違っても傾きは同じです。
・国鉄時代からの新幹線(東海道,山陽,東北,上越)ではほぼ100km刻みで設定されています。
・いわゆる整備新幹線(九州,北陸,北海道)では刻みが細かく角度が急で,北海道は国鉄時代からの新幹線の2倍以上です。
・東海道の熱海と三島は在来線からの移行を促すためか,100kmを超えているにも拘らず100kmまでと同じねだんです。時刻表等では開示されていませんが,実キロでは熱海は95.4km,三島は111.3kmです。

北陸新幹線開業の日の金沢で 2015.3.14
2.新幹線特急料金は通算する
新幹線の特急料金は同じ運転系統で新幹線改札を出なければ通算されます。同じ運転系統とは「ひかり」と「こだま」や「はやぶさ」と「やまびこ」のことで,東北新幹線と上越新幹線を大宮で乗継ぐような場合は通算にはなりません。基本的には東京から相生に行くのに,東京~新神戸間を「のぞみ」,新神戸~相生間を「こだま」に乗るような緩急接続に対応する考えです。余談ですが,このケースのときに姫路で「のぞみ」から「こだま」に乗換えることもできますが,「こだま」が同じ列車で相生に着く時間は同じでも,姫路乗換えだと「のぞみ」利用区間が長くなるため100円高くなるので注意が必要です。また,東北新幹線から北海道新幹線への直通利用時は東北新幹線の新青森までと北海道新幹線の特急料金の合算が原則ですが,指定席料金見合いの部分が二重になるので520円引きし,七戸十和田と奥津軽いまべつ発着の場合は特定特急券の料金で計算するなど,とても芸が細かくなっています。

同じ列車の中で席をきざんだ例(広島~東京を3区間に分ける)
このルールを利用すると,以下のようなこともできます。一つは長距離の利用で空席がない場合でも,区間を分けると席がとれる場合があります。以前,週末の夕方に徳山から東京に帰るときのことです。窓口で広島~東京(直通)の席を所望すると満席でしたが,広島~岡山,岡山~新大阪,新大阪~東京に区切って照会したら,同じ列車で席を確保できました。もちろん荷物を持って車内を行ったり来たりしなければなりませんが,乗れないに比べれば随分ましです。コンピュータの世界では断片化(フラグメンテーション)といいますが,空席が断片化してしまって,席はあるのに通しでの空席がないために起きる現象です。短距離利用の旅客に,乗車駅まで他の旅客が座っていた席を売ればある程度防げるはずですが,列車のなかである部分はぎちぎちだけど,ある席は最初から最後まで客が来なかったということにもなります。JRも旅客が快適に過ごせて,かつ無駄の発生しない座席割当てロジックに日夜改良しているのでしょうが,完璧にはならず難しい命題です。

ブツ切りにした特急券(金沢~高崎を5区間に分ける)
もう一つは途中下車の擬似体験です。北陸新幹線金沢開業の日に僕は金沢から高崎まで新幹線に乗りました。せっかくの開業初日の新幹線,いろいろな駅に寄ってみたいのですが,各駅ごとに降りたら特急料金がバカ高くなってしまいます。仕方がないので,新高岡,黒部・宇奈月温泉,上越妙高,長野で区間を切って特急券を買いました。実際にやってみると,途中下車どころか新幹線改札を出ることすらできません。また,駅によっては次の列車まで1時間待つこともあり,暇を持て余してしまいます。駅の外では新駅開業記念のお祭りをやっていたりで,とても寂しかった憶えがあります。

外では獅子舞をしているが新幹線改札から出られない @新高岡 2015.3.14
なお,特急券を買った駅の窓口氏はこんなブツ切りはダメと文句を言いたそうで,上司にお伺いをたてに行きましたが,「今回限りですよ」とクギをさして発券してくれました。これは140円旅行と同じで,規定の正しい運用とは言えませんが,Noというルールがある訳でもありません。窓口氏の「今回限り」というのは,後日他の駅で「xx駅ではやってくれた」と言われるのを避けるための方便で,「他の担当者でも同様の対応をするとは保証しません」と同義と心得ています。

N700系で東海道区間285m/h運転の「のぞみ」 @米原 2018.8.14
3.新幹線特急料金の加算(1)プレミアムの付く列車
新幹線特急料金の三角表は運転系統ごとに一つで速達列車でも各駅停車でも特急料金は変わりませんでした(※)。1992年3月の300系「のぞみ」の設定の時から「のぞみ」はプレミアムの付く列車として「ひかり」,「こだま」より割高な特急料金が設定されました。自分の勤める会社では,経費がかかりすぎるという理由で「のぞみ」は出張旅費で利用できないルールでした。時代はくだり,現行のダイヤでは1時間に「のぞみ」10-「ひかり」2-「こだま」2本が運転され,むしろ1時間に2本しかない「ひかり」に乗る方が難しい時代になりましたが,特急料金はプレミアムの付いたままです。自由席では列車を特定することができないため,「のぞみ」,「ひかり」,「こだま」は同じ特急料金ですが,「のぞみ」には自由席車は3両しか連結されていません。また,一部区間だけ「のぞみ」の指定席を使う場合のために,区間ごとの加算額を定めた三角表も設定されています。

終焉間際の300系電車 @品川 2012.2.17 写真:ジュニア
一方,東北方面では2011年3月のダイヤ改正から東北新幹線の宇都宮~盛岡間で320km/h運転をする「はやぶさ」が運転を始め,併結する「こまち」も含め加算料金が設定されました。こちらは「のぞみ」と異なり,全車指定席なので自由席特急券はありません。また,この加算料金が設定されているのは,大宮~盛岡間だけです。北陸新幹線の「かがやき」,山陽~九州新幹線の「みずほ」もプレミアムな列車ですが,「かがやき」は全車座席指定であるだけで特急料金の加算はなく,「みずほ」は山陽新幹線区間のみに加算料金が設定され,九州新幹線区間だけなら「さくら」,「つばめ」と同額です。

東北~北海道新幹線「はやぶさ」 @新函館・北斗 2016.3.26
4.新幹線特急料金の加算(2)東北新幹線の東京駅加算
東北新幹線の東京駅開業は1991年6月20日でしたが,上野駅から都心の地下を掘り進み,秋葉原から地上に上がって,元の東海道線優等列車ホームの場所に新幹線ホームを作る工事は費用もかかる難工事でした。その後にもう1本ホームが増設されましたが,このときは赤レンガ駅舎寄りにあった中央線を3階に重層化し,在来線ホーム全てを1本ずつ西に移す工事を,列車を走らせながら完遂しました。費用がかかったことは確かですが,この費用を回収するためか,東北新幹線の東京~上野間には加算料金が設定されています。具体的には,JR東日本の新幹線各駅からの東京駅までの特急料金は上野駅までの特急料金に一律に210円アップです。自分のような神奈川県方面の者にとっては,上野駅の乗換えは少々面倒ですが,上野東京ラインができて便利になったので,最近は専ら上野駅利用です。なお,品川駅に関しては,JR事情で後から駅ができただけなので,このような料金差はありません。

東北新幹線東京駅開業の朝とその日の特急券 1991.6.20
鉄道趣味に無駄遣いはつきものですが,これは究極の無駄遣いかも
5.新幹線特急券の指定席,自由席,立席(りっせき)と繁忙期,閑散期
第9回で特急券の指定席と自由席,立席特急券,繁閑による加減について説明をしました。新幹線特急券でも基本は指定席,自由席と立席特急券は指定席から520円引きの考え方は同じです。また,繁忙期,閑散期の加算,減算も同様に計算します。

東北新幹線「こまち」 @福島 2019.7.13
6.新幹線の特定特急券
特急料金を特別に割引く特定特急券の制度は新幹線にもあり,基本的にはお隣の駅までの自由席を860円にするものです。実際にはいろいろな例外があり,一つは駅間が長く50kmを超える新横浜~小田原と米原~京都は980円,相生~岡山と小倉~博多は970円です。JR東海と西日本で10円の差があるのは面白いですが,統一してほしいところです。もう一つは,新富士,東広島,くりこま高原などの新設駅ができた場合で,これらの駅を挟む2駅間でも50km以下860円,50km超980円(JR西日本は970円)です。また,九州新幹線も例外が多く,そもそも特定特急料金は850円,博多~久留米は間に開業時からある新鳥栖駅があっても850円,整備新幹線区間の新八代~川内間には特定特急券の設定がありません(本則どおり1,230円の自由席特急券が必要)。また,北海道新幹線は全ての列車が全車指定席なので,立席扱いの特定特急券となり,値段は区間によりそれぞれ設定されています。この制度はあくまでお隣の駅までが制度のスタートなので,高崎~軽井沢間41.8kmなどの2駅乗っても50kmに満たない区間でも特定特急券にはなりません。冗長になるので本文中には表示しませんが,区間ごとの一覧表をこちらにまとめました。

新幹線特定特急券
新幹線の1駅くらいなら在来線で行くことが多いので僕としては非常に珍しい1枚です
7.ミニ新幹線(山形・秋田新幹線)の特急料金
山形・秋田新幹線(以降本項では両新幹線といいます)は在来線を改軌し,新幹線車両が直通できるようにしたものです。法律や旅客営業制度上は在来線の扱いで,線内で閉じた利用のときは在来線のA特急料金を適用します。しかし,新幹線と直通するメリットは大きくその利便を特急料金に反映させることは合理的です。単純に福島や盛岡までの新幹線特急料金と加算すると割高になってしまい,そもそも特急料金には指定席料金が含まれるという考えなのでこの分は二重取りになってしまいます。次回に詳細を説明するつもりですが,新幹線~在来線の乗継割引を適用しては逆に割引き過ぎになってしまいます。これらをバランスするため,両新幹線には特別な料金テーブルが設定されています。時刻表の営業案内にはいろいろなねだんが表になっていますが,実は単純で,東北新幹線から両新幹線にまたがって利用する場合の特急料金の基準額(指定席特急料金)を加算し,自由席や繁閑による加減は一律です。なお山形新幹線では自由席車を自由席特急料金で利用できますが,秋田新幹線では「こまち」は全車座席指定のため特定特急券という言い方をします。

山形・秋田新幹線の特急料金のまとめ(福島または盛岡までの新幹線特急料金に表の金額を加減する)
8.新幹線特急券のネットやICカードへの対応
このシリーズは基本的に旅客営業規則の規定を中心に解説してきましたが,今回は少し外れたところでネットへの対応について簡単に触れます。JR東海とJR西日本では東海道・山陽新幹線の利用者を対象にEXICサービスを展開しています。このサービスは大きく分けて2種類あります。1つは特急券と乗車券を包括して割引くEX予約で,きっぷを発券することなくICカードだけで乗車できる場合(本人のみのとき)と,一旦紙の特急券を発券する場合(会員以外が利用するときや複数人で利用するとき)があります。もう1つは予約の受付けだけをネットで行い,特急料金部分だけを対象とし,区間によっては割引価格になるe特急券サービスです。いずれの場合も,スマホを含むインターネット端末でいつでもどこでも予約ができるのと,紙のきっぷを発券するまでは何度でも無料で変更できるのは大きなメリットです。

EX予約で包括料金適用の特急券・乗車券
EX予約の包括料金は乗車券の区間が新幹線の利用区間と同一区間になるので,新幹線に乗る前や降りた後で同一市内の駅に行く場合はその区間の運賃が別途必要になります。一方,e特急券では乗車券はふつうの乗車券なので200km超の区間では○○市内から××市内ゆきになります。どちらが安いかは微妙で,EX予約のサイトには運賃・料金の比較機能のEX予約運賃ナビという機能も用意されています。また,これらの運賃・料金は繁閑による増減がないので,とくに繁忙期は有利になります。EX予約はクレジットカードが前提なので未成年者には敷居が高いですが,とても便利かつお得なので利用をお薦めします。

「タッチでGo!新幹線」サービス利用開始登録票
一方,JR東日本では概ね東京近郊区間と重なる東京~那須塩原,上毛高原,安中榛名間に「タッチでGo!新幹線」サービスを展開しています。これは予め利用登録をした交通系ICカードを使って,新幹線改札もICカードで通過し,カード残額から運賃・料金を引きおとすサービスです。交通系ICカードであればSuicaである要はなく,運賃・料金はEXICサービスと同様に新幹線駅から新幹線駅までの包括料金です。各新幹線は東京近郊区間に含まれないこともあり,入場駅~新幹線乗車駅,新幹線利用区間,新幹線下車駅~出場駅までの3つの区間に区切って運賃計算が行われます。スタートしたばかりのサービスなので,まだ詳細にサーベイはしていませんが,多少の割引きがあっても,総額では変わらないということもありそうです。また,利用できるのは自由席車のみなので,全車指定席の「はやぶさ」や「かがやき」は利用できません。

各社のネットサービス画面(JR西日本5489サービス,JR九州ネット予約)
気やすくネットやICカードへの対応を書き始めたもののサービスが多種多様で残念ながらすべてをフォローしきれません。また,この一連の連載は旅客営業規則,旅客営業取扱基準規程本文の規定を中心に書いており,これらに拠らない特別企画乗車券((企)きっぷ)は取扱う範疇の外としています。世はネットの世の中なので避けては通れないのですが,後日の課題としたいと思います。

東北新幹線「はやぶさ」 @新花巻 2019.7.13
9.これからの新幹線特急券
さて,毎回最後に書いているこの制度の今後です。「のぞみ」や「はやぶさ」などの速度の違い,ミニ新幹線の利便など,上に述べたルールにはそれなりの存在理由があります。それは分かるのですが,結果としてゴチャゴチャになって,僕の様な制度研究好きでも理解できない状況になっています。約款や料金表は分かり易く公平であることが大事なので,ここでは在来線も含めて大ナタを振るっての大改革があってもよさそうです。新幹線から在来線まで含めて優等列車を格付けし,格と距離だけのテーブルにするとかです。昔と違ってコンピュータが発達しているので,少々複雑なロジックでもコンピュータなら瞬時に計算できるので,これからはコンピュータを前提とした制度でもよいと思います。
大きな整理は時間がかかるとして,分割民営化の悪弊の会社間のちょっとした違いの是正はJR各社にやる気さえあればできることです。例えば,新幹線特定特急料金の10円の差の解消などです。

北海道新幹線開業の日に。右下はその日のきっぷ
そして最後はこれまた国家ぐるみの大きな課題ですが,北海道新幹線の高い料金です。札幌までの全線が開業したとしても,このような料金水準で客がつくのでしょうか。鉄道交通は線で繋がるがるので,点と点を結ぶ航空では難しい盛岡~札幌や東京~長万部の移動には効果があると思いますが,これらの流動がどれだけあるのかです。大赤字の新幹線を維持するために,一つ一つを見れば小さな赤字の道内のローカル輸送を切り捨てるのでは本末転倒です。制度の話から,整備新幹線が必要なのかという話に飛んでしまいましたが,鉄道の今後を考えるうえで大事なことであり,各所で適切な議論がされることを望みます。
※ 1964年10月の東海道新幹線開業から1975年3月の山陽新幹線博多開業の前までは「ひかり」は超特急,「こだま」は特急の2本建でした。
(2019.6.16記)
知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則
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- 知って楽しいJRの旅客営業制度11--急行料金の割引き(乗継割引き) (2020/03/02)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度10--新幹線特急券に関する規則 (2019/08/04)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度9--急行券・特急券と周辺の規則 (2019/03/02)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度8--新幹線と周辺の乗車券の規則 (2018/10/13)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度7--特定市内駅と駅に関わる規則 (2018/03/24)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度6--区間外乗車のいろいろ・その2 (2017/12/16)
- 知って楽しいJRの旅客営業制度5--区間外乗車のいろいろ・その1 (2017/10/21)
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