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2023-12

知って楽しいJRの旅客営業制度11--急行料金の割引き(乗継割引き)

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「くろしお」,「南紀」も新幹線から乗継げば割引きの対象 1982.2

 JRの旅客営業制度の考察,11回目は急行料金の割引きについて説明します。旅客営業規則では特急も含めて急行というので,特急券の割引きも含めて扱います。また,「割引き」というタイトルはつけましたが,そんな制度がたくさんあるはずもなく,実態としては乗継割引きの解説です。今回は余裕があるので,古いきっぷなども載せながら,昔話も付け加えます。

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乗継割引き適用の特急券。「乗継」と大きく印字される 

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昔は常備券でも「乗継」と印字されたものがあった
(豊岡のものはJR化後ですが「こくてつ」の地紋)

1.乗継割引きの基本(旅客営業規則(以下,規)57条の2,126条の2)
 新幹線と在来線,新幹線または「サンライズ瀬戸」と四国の急行列車相互間を乗継ぐ場合で下の条件を満たすときは,在来線の急行券が半額になるものです。

(1)乗継ぐ列車の組合わせと乗換駅
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乗継割引きのまとめ

(2)2列車に乗る日は,新幹線~在来線のときは当日限り,在来線~新幹線のときは当日または翌日に限る。

(3)乗車区間の乗車券と両方の列車の特急券を同時に買う場合に限る。

(4)新幹線の両側で在来線と乗継ぐ場合は特急料金が高いほうの1列車に限る。例えば,益田~(おき)~新山口~(新幹線)~米原~(しらさぎ)~金沢の場合は「しらさぎ」だけが半額。

(5)基本的に1人用個室以外の個室の設備を使う特急券は割引きの取扱いをしない。

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割引きの条件となる新幹線の特急券にも「乗継」の証明をする

2.新幹線~在来線の乗継ぎ割引について
(1)乗継割引きの経緯
 乗継ぎ割引のそもそもは,新幹線ができたときに東京から山陽・九州方面への直通旅客が,直通列車がなくなったうえに新大阪や岡山での乗換えをしいられるようになったこと,更に新幹線の高い特急料金の負担があることから,これらの救済のためにスタートした制度と心得ています。家にある時刻表の営業案内を紐解くと,東海道新幹線開業の1964年10月号には乗継割引きの記述はありませんが,全国の特急列車網を整備したエポックメーキングなヨン・サン・トオダイヤ改正の1968年10月号にはその記述があります。新幹線~在来線の乗継ぎでは多かれ少なかれ同様の事情ですから,東京駅を除く新幹線駅全てと大阪駅を対象としていました。制度の趣旨に照らして,東京~九州間の寝台特急は割引くに当たらずと考えたのでしょうか,この時から割引きはありませんでした。

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43-10のダイヤ改正号の時刻表(復刻版) 日本交通公社 1984年7月刊

 列車に乗る日が在来線~新幹線の場合は翌日でもよいのは,九州発の寝台特急から新大阪や岡山で乗継ぐケースを想定していたのでしょう。往きと帰りで異なる面白い制度ではあります。

 時代は下り,東北,上越の新幹線ができると乗継割引きの制度は受継がれ,東京,上野,大宮を除く各駅での在来線への乗継ぎが割引きになりました。福島からの「つばさ」や盛岡からの「たざわ」,「はつかり」などでも盛んに使われたことと思います。新幹線網の整備が進むとこれらの特急は(整備)新幹線やミニ新幹線に取って代わられました。

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東北新幹線が盛岡までの頃の「はつかり」の特急券

(2)乗継割引きの応用~長距離の寝台特急を追いかける
 新幹線~九州特急を除く在来線特急というのは意外と応用範囲が広く,国鉄~JRの意図とは多少異なりますが,こんな使い方もできました。今でも条件を満たせば可能ですが,そもそもこれらの列車はなくなってしまったものが多く,昔話です。
 北海道夜行の「北斗星」は上野発時刻が早く,仕事を終えてからでは間に合わない時間でした。このため,新幹線で郡山,福島,仙台へ追いかけてつかまえることがありましたが,この時の「北斗星」は乗継割引きでした。逆に,上野まで「北斗星」に乗っていたのでは会社の始業に間に合わないので,郡山から新幹線で会社に駆込んだこともありました。今でも「サンライズ出雲・瀬戸」を熱海でつかまえる乗継ぎは可能ですが,新幹線で行っても東京を出る時間は10分しか変わらないので,実用的ではありません。

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新幹線で追いかけて乗った「北斗星」の特急券

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「サンライズ瀬戸」の特急券・寝台券
このときは呉在勤で,岡山から新幹線で呉に戻った。飛行機の初便より少し早かった

(3)乗継割引きの応用~新幹線で行って在来線で帰る
 乗継割引きの趣旨に沿った利用とは到底言えませんが,往路は新幹線で,帰りはゆっくり在来線でというときの在来線に乗継割引きが使えます。静岡への用事のときに,往きは新幹線,帰りは在来線の特急「東海」(今は廃止)を使うことができました。岡山に行く用事がある時,往きは「サンライズ出雲・瀬戸」で,帰りは新幹線というのもありです。在来線を先に乗る場合は,翌日の乗継ぎでも適用になるので,岡山でほぼ1日を過ごすことができます。今でも京都~姫路間で「はくと」などという利用が考えられますが,新快速が15分間隔で走るなか,敢えて「はくと」に乗ることもなく,これも実用的ではありません。

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「東海」の「乗継」の特急券。ただし,この時は駒ケ根からの帰り

3.本州~四国間の乗継割引きについて
 本州~四国の乗継割引きは歴史的に2つの制度があります。一つは「サンライズ瀬戸」号を利用し,坂出または高松で乗継ぐ場合で,本四備讃線開通前の寝台特急「瀬戸」時代からの規定を引継ぐものです。
 もう一つは2.の新幹線~在来線のルールの一部として,坂出と高松での乗継ぎを認めるものです。ただし,岡山~坂出,高松間を特急で来た場合は,その分で乗継割引きの権利は行使済なので,その次に乗る特急の分は割引きになりません。
 なお,新幹線から岡山乗継ぎで「しおかぜ」または「南風」に乗り,宇多津,丸亀,多度津で四国島内系統の「しまんと」または「いしづち」に乗継ぐ場合の「しまんと」,「いしづち」はとくにNGとの規定がありません。これを規定するのは規57条2という1つ特急券で複数列車の乗継ぎを例外的に認める条文なので,適用可能と考えています。尤も,時刻表を見ると,ここ数年で「しおかぜ」,「南風」系統の列車が充実し,岡山直通列車が増えたのでそもそもこのニーズはなさそうです。

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昔の高松駅風景 1979.8.13

4.本州~北海道間の乗継割引きについて
 かつては,四国同様に対北海道でも,乗継割引きの制度がありました。青森まで特急列車で来た場合,青函連絡船や海峡線の列車を介して,函館からの特急列車が割引きになるものです。また,新幹線~在来線の割引きとは趣旨が違うので,東北新幹線~盛岡~(はつかり)~青森~(海峡線)~函館~(北斗)~札幌の場合,「はつかり」と「北斗」は両方とも半額でした。北海道新幹線ができた今では,新函館北斗まで直接新幹線で行けるようになったので,通常の新幹線~在来線乗継ぎのルールの中で運用できます。

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寝台特急「ゆうづる」と「おおとり」の乗継ぎ
奇跡的に(?)このときの写真もありました 1986.12.28

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函館接続の特急用の常備券

5.乗継割引きの今
 乗継割引きの制度の始まりは2.に書いたとおりですが,新幹線網が整備され,新幹線の利用がふつうになると,新幹線利用による割高感の救済は無用の心配になってきます。このため現在は乗継割引きは消極的になっていて,JR各社でも温度差があります。

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JR九州でも乗継割引きがあった頃の特急券

 先ず,JR九州ですが,JR九州管内では乗継割引きはありません。鹿児島中央まで新幹線が通じたので途中で乗継ぐという概念がなくなった,JR九州内は全てがB特急のうえ短距離の特急料金も用意し全般として特急料金が割安になった等の理由から,制度としての役割を終えたと判断したようです。かつては,「かもめ」や「有明」の車内で本州発の乗車券を見せて特急券を買うと,車掌が「博多までは新幹線で来たのですね」と確認のうえで,半額で車内券を売っていました。それほど積極的に適用していましたが,反面,それが煩雑になったとも考えられます。

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以前なら適用可だったと思うが,この時点(2014年)で適用不可だった「あけぼの」

 次にJR東日本は,乗継ぎに関して厳密に順路であることを意識して,適用可能な駅を列挙する方式に改めました。以前は仙台への往復に関して,往路は新幹線で,復路は常磐線の「ひたち」でという乗継割引きが可能でした。このような制度の趣旨と合わない乗継割引きを排除するよう,適用可能な駅を絞っています(1.の表参照)。上のきっぷの当時は,新青森接続で弘前や大館に行く「つがる」は乗継割引き適用でしたが,「あけぼの」は名指しで除外されていました。

 JR東海とJR西日本は従来と変わらぬ制度を維持していますが,山陽新幹線の九州内の小倉,博多は除外,北陸新幹線もJR東日本方式を踏襲しています。北陸新幹線の場合は在来線が3セク化されてるので,3セク会社の特急料金は割引きにならず,上越妙高の場合は直江津以遠,金沢の場合は津幡以遠のJR部分の特急料金が半額になります。なお,金沢も指定にあるので,北陸新幹線で来て,サンダーバードで小松や福井へ行く場合も乗継割引き適用です。

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サンライズ出雲・瀬戸 @横浜 2019.1.3

6.乗継割引きの運用
(1)同時購入条件の運用
 乗継割引きの適用を受けるには,乗車券と特急券を同時に買わなければならいことになっています。5.に書いたJR九州の例は少々やり過ぎの感もありますが,比較的柔軟に運用されているようです。さすがに1.の表で条件となる列車の特急券なしに割引く例は考えられませんが,一般に同時でなくても,条件となる新幹線特急券を提示すれば割引いてもらえます。また,旅客営業取扱基準規程97条2で,乗継割引きを請求したのに満員等で売れない場合は「乗継請求」というハンコを押すことになっていますが,見たことがありません(そういう請求をした憶えもないですが)。

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発行日付から「はつかり」分は後から青森で買っている

(2)快速列車の乗継割引き
 この記事を書いて思い出したのですが,快速列車の指定席で乗継割引きの適用を受けたことがありません。先般乗った「きらきらうえつ」も新潟乗継ぎで条件に合います。しかし,乗継割引きは条文のタイトルが「乗継急行券の発売」で,条文も「急行列車相互間に乗継ぎをする場合で...」という書き出しです。従って,快速列車ははじめから相手にされておらず,快速列車の乗継割引きという概念はありません。

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「伊那路」はA特急料金だがデッキなしの373系で運転 2015.7.29

7.乗継割引きのこれから
 毎回最後に書いているこの制度のこれからですが,5.に書いた現状を考えれば消極的にならざるを得ません。JR東海だけ見ると,この会社にはB特急の制度がないので,新幹線で来ていただいたお客さんに限り在来線特急券を割引きサービスします...という考え方はあります。これとて鈍足な「伊那路」や「富士川」をB特急にすればよい訳で,JR九州同様に乗継ぎ割引きの制度を全廃としても大きな問題はなさそうです。旅客営業の制度で割引きといえば往復割引きか乗継割引きくらいしか思い当たらないので,趣味的には乗継割引き適用になるとワクッとします。先は心配ながらも,制度のあるうちは密かな楽しみかな...というのが乗継割引きのこれからです。(2020.2.8記)

知って楽しいJRの旅客営業制度バックナンバー
1.大都市近郊区間と140円旅行
2.きっぷの有効期間と途中下車
3.乗車券の経路と種類
4.運賃計算の基本と割引き,加算
5.区間外乗車のいろいろ・その1
6.区間外乗車のいろいろ・その2
7.特定市内駅と駅に関わる規則
8.新幹線と周辺の乗車券の規則
9.急行券・特急券と周辺の規則
10.新幹線特急券に関する規則
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