鉄道のイロハ(4)--鉄道の信号と標識・制作うら話

(2021年)7月に「鉄道のイロハ(4)--鉄道の信号と標識」という記事を載せましたが,この記事はこのブログで最大級に苦労して作りました。今日は「うら話」と題して,その制作途中の苦労--といっても笑い話のようですが--を書いてみたいと思います。
1.誘導信号と誘導運転
話題の1は誘導信号機と誘導運転です。誘導運転とは既に列車がいる閉塞区間内に列車を増結するなどのために別の列車を進入させるときに使う運転方式で,誘導信号機はそれが可能なことを運転士に知らせる信号です。

京急・品川駅での増結風景。帰宅ラッシュ時は20分に1回行われる 2021.11.25
電車の増結なら僕の住む横浜南部を走る京浜急行では頻繁に行なっています。そんな写真ならいつでも撮れるとタカをくくっていました。どうせならかぶりつき車窓から先着列車も入れての写真を撮ろうと思うと,パターンが限られれます。以前は京急川崎で品川方面から来た久里浜方面ゆき列車の後部に羽田空港から来た新逗子(現・逗子・葉山)ゆき列車を増結するシーンが20分に1度見られました。
今なら朝の上り列車に金沢文庫からの増結車をつなぐ作業があります。金沢文庫の増結はホームの混雑緩和や増結車の待機場所の関係で前増結と後ろ増結が交互に行なわれます。このうち前増結の場合は基本編成の最前部で見ていれば増結シーンが見られると期待して,朝の金沢文庫に出掛けたのでした。ところが,下調べ不足で,前増結の場合は,基本編成をホームの後ろ寄りに停車させ,その後に引上げ線から増結車を回送して連結する手順で,客を乗せた状態で連結するシーンは見られませんでした。それでもせっかく金沢文庫に行ったので誘導信号機の写真などを撮ってきました。本番の記事ではその写真を載せています。

金沢文庫駅の誘導信号機。この信号柱は賑やかです 2020.6.6
京急の時刻表を網羅的に調べた訳ではないので,パターンダイヤ以外の時間帯でこのような列車があるのかもしれません。それを調べるのも面倒なので,他の路線での誘導運転の例を探します。JRの中距離電車は東海道線平塚,横須賀線逗子,高崎線籠原,東北線小金井,常磐線土浦など多くの駅で増結車の解結は行われていますが,客が乗った電車が後から進入するパターンは思い当たりません。夜の総武本線佐倉駅で成東始発の付属編成に成田空港始発の基本編成を増結するのは知っていましたが,真っ暗な夜でもあり写材にはふさわしくありません。

成東・成田空港発久里浜ゆき5060F~2060F~2061S @佐倉 2019.12.30
自宅から遠くない所でという条件も入れてあれこれ考えると,中央線~青梅線系統のホリデー快速が拝島で列車の解結があることを思い出しました。往きは奥多摩ゆき「おくたま」号と武蔵五日市ゆき「あきがわ」号を切り離しますが,帰りはこれらを併結するため誘導運転を見ることができそうです。時刻表を手繰ると拝島では更に朝に2本(休日は1本)だけ高麗川から来た八高線列車と武蔵五日市から来た列車を連結することが分かりました。

休日は朝に1本だけの高麗川発東京ゆき列車 @東福生 2020.6.27
去年の6月27日,朝の八高線からの東京ゆき列車に箱根ヶ崎から乗ります。幸い立ち席ですがかぶりつき席も空いています。東福生を出て,拝島が近づくと場内信号機の手前で一旦停車です。ところが八高線の拝島駅の場内信号は随分駅の外側にあって,これから連結する先着列車は見えません。ほどなく,赤信号の下の誘導信号が点灯し,汽笛一声の後しずしずとホームに進入し,先行列車の5mほど手前で停車します。ここで構内運転専任(?)の運転士さんが乗車し,最後の5mを運転,連結の儀式は終了です。京急などでは構内運転の運転士さんは指導運転士の資格を持つベテラン--一説には踏切や速度制限など色々なことに気を遣う本線運転より楽だから--が就くと聞きましたが,ここもそんな感じです。拝島駅は電留線を持つので一定量の仕事もあるのでしょうが,併結時の5mの運転だけのために要員を用意するのも大変です。ちょっと想定とは違いましたが,誘導運転についていろいろな勉強ができました。

拝島駅の朝の連結風景 2020.6.27
その日の帰りは,これもまた編成の後ろ側に付く武蔵五日市発の「あきがわ」号でかぶりつきです。拝島の配線は下り方の一番左が五日市線で,こちらはなんとか誘導信号の手前から先着列車を見通すことができます。この日は朝と夕方が勝負なので,あいだの時間は東京アドベンチャーラインを楽しんできました。その様子は既にアップ済なので,興味のあるかたはこちらを参照ください。

採用になった拝島駅の連結風景 2020.6.27
そうこうするうち夏には南東北,福島界隈へ軽い撮影行に出掛けました。福島では通称・山形新幹線の列車の解結が1日を通して行われます。連結風景の写真を撮るのに苦労した直後だったので,わざわざ入場券を買って「やまびこ」に「つばさ」を連結するシーンを見てきました。新幹線であってもルールは同じなのでしょう,5m手前で一旦停止,地上側係員の誘導に従って,ガッシャン連結です。実際のところはATCなどで厳重でバックアップされているのでしょう,手旗を持った駅員さんは誘導する風でもなく,見ているだけです。これは素人考えで,立っている場所がポイントなのでしょうか。

福島駅「つばさ」の連結シーン 2020.8.21
その後も,去年の12月には185系「踊り子」号で,今年の夏には最長鈍行もどきの敦賀~姫路の新快速電車で,お客さんを乗せたままの連結シーンを見ています。そんなことなら無理しなくても...という面はありますが,目的がないと旅行も面白くありません。
2.タブレット閉塞
次は現役のタブレット閉塞とタブレット閉塞器の写真を求めての話です。タブレット閉塞のシステムは国鉄末期に特殊自動閉塞のシステムが開発されるまでは日本中の単線区間で見られました。自分にとってはローカル線旅行につきものの風景として,交換駅での駅長さんと運転士さんのタブレット交換--ついでに挨拶程度の会話をする--シーンがあります。しかし,仕事中の鉄道員の写真を撮るのはマナー違反でもあり,手持ちの写真の中にそういったものは少ないです。このため,記事に合うような写真を新たに撮ることにしました。

名松線の票券とスタフの交換シーン 2020.8.1
国内にタブレット閉塞を使っている区間ってあるのだろうか?と思って探すとどうやら名松線がそのようです。去年の夏には少々しんどかったですが,青春18きっぷを使って名松線の伊勢奥津までを往復してきました。詳細は記事にも書きましたが,名松線の閉塞方式は票券閉塞とスタフ閉塞でタブレット閉塞ではありません。従って,交換をする家城駅の中を探し回っても,タブレット閉塞器はないはずです。でも写真を見ると,駅長さんと運転士さんはタブレットキャリアにしまわれたタブレットのタマをやり取りしています。

タブレット閉塞器とタブレット(タマ)。説明文まで書いたけどボツになった写真です @音威子府 2017.8.3
タブレット閉塞は,閉塞区間の両端の駅に置かれた赤いタブレット閉塞器の機械が通信し合って,閉塞区間内に1列車しかいないことを担保するシステムで,箱から出されたタブレットのタマがその閉塞区間に進入できる証(あかし)です。もしタブレット閉塞器が壊れてしまったら,線路も車両も乗務員も健全なのに列車を走らせることができません。もちろんBCP(事業継続計画)として代用閉塞のような運転方法はありますが,これを頻繁に実施する訳にもゆきません。製作後何十年も経ったタブレット閉塞器にこんなに重要な役割を負わせる訳にはゆかないし,機械を交換しようにも,今やタブレット閉塞器を作っている会社がないでしょう。元々そうだったのか,タブレット閉塞器を使うリスク回避のために後付けで転換したのか分かりませんが,JR東海も考えたものです。
一方,閉塞区間への進入のための証は,票券閉塞では票券--詳しくは知りませんが券というからには紙切れでしょう--,スタフ閉塞では棒状の形をしたスタフ(杖)です。タブレット閉塞用のタマは広く使われていたので,票券やスタフの代わりにタブレットのタマだけを通行証として代用することは国鉄,私鉄を問わず行われていました。これであればタブレット用のキャリアも使えるし,係員による取り回しも共通化ができます。

博物館のタブレット閉塞器 @鉄道博物館(大宮) 2020.11.14
そんな訳で,名松線での運用は合理的とは思いますが,タブレット閉塞であるというのは間違いで,騙されてしまいました。閉塞方式の区分でいうと,タブレット閉塞ではないのですが,レトロな雰囲気で駅長さんと運転士さんが通行証をやり取りしながら運転しているという意味では全くの間違いでもありません。名松線に行った日はお天気もよく,きれいな写真も撮れたので善しとしましょう。

肥薩線嘉例川駅にはタブレット閉塞器が残っていた 2014.2.23
名松線は空振りに終わったので,その他でタブレット閉塞器の写真を探します。先ず一つは北海道最長鈍行と名物の駅そばを食べに行った音威子府です。ここは駅舎内に展示室があり,天北線や昭和の時代の鉄道にまつわる品物が展示されています。もちろんタブレット閉塞器もあるのですが,肝心のタマの取出し口が隠れています。いろいろ思い出すとレトロ駅舎で有名な肥薩線の嘉例川の駅舎内にもタブレット閉塞器がありました。タブレット閉塞器は赤い箱ですが,隣に雛飾りが置いてあり,これも赤い毛氈が敷いてあって,どうも紛らわしいです。いろいろ考えているうちに鉄道博物館ならタブレット閉塞器を展示しているだろうと思い立ちました。たまたま川越線80年のイベントで埼玉方面に行く用事もできたので,これ幸いと鉄道博物館に行き,バッチリの写真を撮ってきました。
ところでスタフですが,名松線はじめ多くの場合はタブレットのタマで代用されることは既に書きましたが,津軽鉄道や名鉄築港線では棒状のスタフが現役のようです。いつか機会を見つけて,これらを見に行きたいと思います。

念願叶ってスタフを見ることができました @津軽鉄道 金木 2022.1.24
2022年1月の北海道旅行の帰りに津軽鉄道に寄って,スタフの写真を撮ることができました。写真の助役さんが持っているのがスタフで,かなり量感のある棒状のものです。何十年も安全を守って使われ続けてきたものなので,とても年季が入っています。とくにお断りした訳ではありませんが,とてもよく撮れました。この場を借りて感謝申しあげます。(この節2022.3.14追記)
3.ATO運転の列車,デジタルATC
最後のうら話はATO運転です。ATO運転の嚆矢は記事にも書いたとおり地下鉄日比谷線です(厳密には名古屋の地下鉄のほうが早かったが1年半のテストにとどまった)。僕は20歳前後の15年間位を東急東横線の学芸大学駅を利用していたので,日比谷線電車は地元です。もちろん営団3000系のATO搭載車も見たことがあり,ATO出発ボタンは白い大きなボタンだったと思います。せめて外見の写真だけでもと思い古い写真を探し,出てきたのが下の写真です。当時は営団3000系は夏の暑い時期でも冷房がなく,妙におでこの広いマッコウ鯨のようなお顔で,お世辞にも格好よいとは思えず,写真も撮っていなかったのです。

多摩川の鉄橋上ですれ違う営団3000系と東急8000系 1978年冬
記事のアイディアを温めているうち,2021年3月のJRグループ全国ダイヤ改正から常磐線でもATOを使い始めるというニュースが入ってきました。これには少々驚き,慌てて現地に写真を撮りに行ったのは,6月に「2021年ダイヤ改正のおさらいに千葉への140円旅行・前編」の記事に書いたとおりです。JR東日本は常磐線で知見を蓄積し将来のドライバレス運転に繋げたいと言っていますが,一般の鉄道路線でそんなに簡単にドライバレスが実現するとも思えません。実現するとしたら,線路が他の陸上交通と完全に分離された新幹線のほうが可能性はあると思います。時速300kmで疾走する新幹線に運転士がいないというのは心情的に受け入れづらいです。

デジタルATC対応の運転台 @京浜東北線北行電車 2020.5.30
鉄道の運転制御を自動化するためにカギとなる技術の1つにデジタルATCがあると思います。この記事を書くのにデジタルATCは随分勉強しました。日本の高密度運転を支える技術として誇れるものと思いますが,万が一にも装置をテロリストなどに乗っ取られたら,どんな事故が起こるか分かりません。こんなこともあってか,JRも装置メーカーも情報の開示には積極的でありません。安全の確保が優先になるのは理解しますが,知りたいことも多いです。最近はコロナ禍で東京近郊の混雑した列車は乗るのを控えていますが,一段落したら,かぶりつきでじっくりデジタルATCの動作や運転操作を見学したいと思います。

かぶりつきが楽しい関西のアーバンライナー電車 @東海道本線川瀬あたり 2021.7.25
鉄道の運転やそれを支える信号システムは奥が深く,知れば知るほど興味が湧きます。その原点は運転台かぶりつきのような気もします。国鉄末期は運転台の様子が見えない電車も多かったですが,時代が変わり今は鉄道事業者各社とも総じて前面展望は開放が一般的です。夏と秋に乗った関西のアーバンライナー電車などは運転台直後の扉横にも補助いすがあってかぶりつきにはもってこいです。この場所から運転士さん各位のキビキビとした動作を見るのも楽しいもので,ATOの技術の発達でこれが見られなくなってしまうのは寂しいです。そんな将来を思いつつ今日の記事を終わります。(2021.11.23記)
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